夜な夜なシネマ

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『水平線』

2024年05月04日 | 映画(さ行)
『水平線』
監督:小林且弥
出演:ピエール瀧,栗林藍希,足立智充,内田慈,押田岳,円井わん,
   高橋良輔,清水優,遊屋慎太郎,大方斐紗子,大堀こういち,渡辺哲他
 
が倒れる前日は十三で映画を観ました。
「十三へ映画を観に行っても大丈夫かな」と母にLINEしたら、「行っておいで」と言ってくれたから。
まさか翌朝母が倒れて入院、1カ月と少し後に亡くなるなんて思いもしなかったなぁ。
 
その日、シアターセブン『月』を観たとき、お手洗いに傘を忘れたと帰宅後に気づく。
すぐに電話して「近日中に取りに伺います」と言ったのに、母が倒れてしまいました。
で、シアターセブンにメールで事情をお知らせし、しばらく傘を預かっていただきました。
とても温かいお返事をいただいて、安心したのを思い出します。
 
さて、母が亡くなってちょっと2週間経った日、シアターセブンで本作を鑑賞。
傘の話をしてお礼を申し上げ、また忘れても困るからと帰るときに受け取ることに。
 
モデルに俳優にプロデューサーに演出家、なんでもこなす小林且弥の長編監督デビュー作。
 
東日本大震災で妻を失った井口真吾(ピエール瀧)は、一人娘の奈生(栗林藍希)と共に福島の港町で暮らしている。
個人で散骨業を営む彼のもとに、ある日、松山(遊屋慎太郎)という男性がやってくる。
松山は亡くなった兄の骨を海に撒いてほしいと言うが、火葬許可証を家に忘れてきたらしく、
それがなくては散骨できないからと、許可証が届くまで井口が遺骨を預かることに。
しかし、松山はその後なかなか現れない。
 
そうこうしているうちに、ジャーナリストを名乗る江田(足立智充)が姿を見せ、
松山の兄は通り魔事件で無差別に何人も殺した犯人であることを告げる。
殺人犯の遺骨を犠牲者も眠る海に撒くつもりか、それについてどう考えるのかと江田は井口に詰め寄り……。
 
ジャーナリストって何様なのかと嫌悪感が募ります。
もちろん素晴らしいジャーナリストもいるのはわかるけど、この江田という男は最悪。
偉そうに正義感をふりかざすけど、被災者じゃないし、福島在住でもない。
なのに自分は震災の記憶の風化を止める、被災者の代弁者なのだとのたまう。
 
通り魔事件の被害者遺族を井口の前に連れてきて、頼むから殺人犯の遺骨を海に撒かないでくれと言わせる江田。
じゃあ手元にある遺骨をどうすればいいのかと問い返すと、
そんなことはこちらの考えることじゃない、鳶にでも鷹にでも食われりゃいいなどと言う。
トイレに流したところで、結局たどりつく先は海なのに。
 
江田の無神経な取材に乗っかるように都会から押し寄せるマスコミの人々。
江田のことをゲス野郎と言いながら彼同様に井口を責める姿勢がとても嫌。
震災後の風評被害に悩まされてきた漁師たちも、井口の気持ちを理解する清一(渡辺哲)以外は井口を厄介者扱い。
娘さえも井口のことをなじるから、居たたまれない気持ちになりました。
 
風化とは何なのかを考えさせられます。
嫌なことなんて思い出したくないのに、関係ない人に思い出さされる。嫌な記憶を掘り返される。
思い出さないのが風化なのであれば、風化しちまえばいいと叫ぶ井口。
紙一重ですね。
 
ちなみに円井わんの役どころは奈生の親友。
彼女がいちばん人の気持ちに寄り添える人物のように感じました。
 
監督デビューの小林且弥、面白いじゃあないか。今後にも期待します。

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