夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ミスター・ノーバディ』

2011年05月17日 | 映画(ま行)
『ミスター・ノーバディ』(原題:Mr. Nobody)
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ジャレッド・レトー,サラ・ポーリー,ダイアン・クルーガー,
   リン・ダン・ファン,リス・エヴァンス,ナターシャ・リトル他

フランス/ドイツ/ベルギー/カナダの作品。

前述の『イリュージョニスト』と同じ劇場の同じスクリーンにて。
137分の長編で、『イリュージョニスト』の後、休憩時間は10分間。
都合220分、眠らず飽きずに座っていられない気がして迷いましたが、
そんな心配はまったく不要でした。

2092年。医学のめざましい進歩で、人はもはや死なない世界。
そんななか、あえて死ぬ人生を選び、118歳の誕生日を迎える老人ニモは、
人類最後で唯一の「死ぬ人」として、世間の注目を集めている。
死ぬまぎわのニモの病室は街の大型スクリーンに映し出され、
人びとは好奇心いっぱいの目でそれを見つめる。

あえて「老いる」こと、そして「死ぬ」ことを選択したニモ。
いまとなっては誰も知る人のない彼の過去に興味を持った記者は、
病室に潜り込み、インタビューを試みるのだが……。

どこまであらすじを書けばいいのか悩みます。

ニモが語る過去の話には、まず9歳のニモが登場します。
ベンチに腰かけている少女は、近所に住むアンナ、エリース、ジーン。
タイプの異なる3人を見ながら、
ニモは彼女たちそれぞれとの結婚生活に想いを馳せます。

やがて、ニモに訪れる悲劇。
仲の良かったはずの両親が離婚することに。
母親が家を去る日、父親はニモを連れて駅へ。
ここでニモは究極の選択を迫られます。
母親とともに電車に乗り込むのか。父親とここに残るのか。
ニモのその後の人生に大きな影響を与える選択。

母親と父親、どちらを選んでどう過ごしたか。
アンナと、エリースと、ジーンと。それぞれとの恋。
そのすべてについて記者に語るニモ。
混乱する記者は、いったいどれがあなたの本当の過去なのかと問います。

だけど、ニモにとってはどれも真の人生。
どんな言葉にも行動にも、すべてに選択肢があり、
笑って泣いて、傷つき、癒されて、迎えるラストシーンは圧巻。
赤、青、黄と色を使い分けて、こんな複雑そうな話をわかりやすくしています。

人生においてはとにかく選択を迫られるけれど、
もし選択しなければ、すべての可能性が残る。
でも、どんな選択をしたとしても、誤った人生ではないのかなって。

それにしても、ジャレッド・レトーってジム・キャリーに似てません?

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『イリュージョニスト』

2011年05月13日 | 映画(あ行)
『イリュージョニスト』(原題:L'Illusionniste)
監督:シルヴァン・ショメ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ,エイリー・ランキン他

全国のミニシアター系で順次公開中。
『ベルヴィル・ランデブー』(2002)にイカレてはや5年以上、
待望の新作です。

フランスの無声喜劇の王様ジャック・タチが娘に遺したと言われる脚本を、
タチを主人公のキャラクターにアニメ化した素晴らしい作品。

ところが、私のなんという愚かさ。
タチの幻の脚本のアニメ化だということは知っていましたが、
彼自身が主人公だとわかったのは映画を観終わってから。
思い出すさまざまなシーンに別の想いが感じられて、
今ごろ心地よさに浸っています。

1950年代のパリ。
かつての人気者、初老の手品師タチシェフ。
今は寂れた劇場や場末のバーをどさ回りする日々。
ろくに見てもくれない客を前に、淡々とステージをこなす。

ある日、スコットランドの離島を訪れたタチシェフは、
酒場の酔客たちに予想外に歓迎され、拍手喝采を受ける。

そんな様子を密かに見ていたのが、宿で働く貧しい少女アリス。
シャツの洗濯をしてくれた彼女に、タチシェフは感謝を込めて手品を見せる。
さらには、彼女が爪先の破れた靴を履いていることに気づき、
町の靴店で購入した赤い靴をハンカチーフの下から取り出してプレゼント。

ところが、アリスにはそれが種も仕掛けもある手品だとはわからない。
タチシェフのことを何でも叶えてくれる魔法使いだと信じた彼女は、
島を離れるタチシェフについて来てしまうのだが……。

世間ではすっかり落ちぶれた手品師に対してアリスが向けるまなざしは、
尊敬と期待に満ちたもの。
タチシェフは真相を明かせず、ついつい彼女の期待に応えてしまいます。
彼女がショーウインドーの洋服を見つめればそれを、
パンプスを見つめればそれを、魔法のごとく彼女に差し出すのです。
そうするために、興行先の異国で夜勤にまで応募するタチシェフ。

彼がそこまでして魔法使いでありたかったのは、
生き別れになった娘をアリスにだぶらせていたからでした。
……ということも、映画を観ているときにはわからず、
あとからわかって、ラストシーンに胸がいっぱいになりました。

前作同様、台詞はほとんどありません。
言葉なんていらない。そう思わされます。
その反面、言わなきゃわからないから、行き違いがあるわけで。

異国なのに、知らない時代なのに、郷愁に駆られます。
好きだなぁ。

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『ネコを探して』

2011年05月10日 | 映画(な行)
『ネコを探して』(原題:La Voie du Chat)
監督:ミリアム・トネロット
アニメーション監督:ジェローム・ジュヴレ

フランスの女流監督によるドキュメンタリーです。
アニメーションと実写を織り交ぜた構成で、趣向が凝らされています。

まずはアニメーションでスタート。
主人公のナレーションのもと、フランスのサロンに集う文化人たち。
悪魔の化身とみなされてきたネコが、自由の象徴となるまでの過程が語られます。
ネコ‘だけ’が描かれた絵画が登場するようになった時期、
安藤広重が描いたネコ独特のポーズや夏目漱石の著作が西洋文化に与えた影響など、
ほ~、なるほどと感心することしきり。

やがて、サロンから抜け出す主人公の飼い猫、クロ。
クロは鏡の中へと飛び込み、それを追う主人公とともに、
私たちのネコを知る旅がはじまります。

イギリスの国営鉄道時代、ネコは立派な職員でした。
信号所の脇のケーブルをかじるネズミを退治するため、
ネコは付近を定期的に見回る役目を果たし、エサ代も支給されていました。
ところが、民営化されてからは、ネコのエサ代は無駄だとばっさり。
当時を知る職員たちは、ネコたちの働きぶりを称賛しています。

また、アメリカのロードアイランド州の病院には2匹のネコが常駐。
そのうちの1匹は、有名な「おくりねこ」。
死期が近づいた患者の部屋へと入り、寄り添うのだそうです。
なぜかいつも最期のほぼ4時間前。
そのような患者が二人いる場合、ネコは迷うそぶりを見せた末、
最期を看取る者がいないほうの患者の部屋へ入るのだとか。

クロを追って日本へもやって来ます。
水俣市では、漁網に近づく他の動物を追い払う役目をネコに預けていました。
人びとはとれとれの魚をネコに与え、その代わり、ネコたちは漁網を守ります。
あのチッソの事件のとき、まずネコたちの体に異変が起きたのでした。

そのほか、和歌山のネコ駅長、たまも登場。
ミネソタ州のネコと一晩過ごすことのできるホテル。
このホテルのネコは人を和ませるプロです。
京極夏彦の小説にも出てきた招き猫の逸話にもニヤリ。

猫や犬など、ペットたちが置かれた状況を描いた作品としては、
数カ月前にTV番組『人生が変わる1分間の深イイ話』でも取り上げられた、
飯田基晴監督の『犬と猫と人間と』(2009)が記憶に新しいところ。
『ネコを探して』はより世界を広げ、人類とネコの関係の歴史を窺うことができます。

旅の終わりに何を見つけますか。

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『八日目の蝉』

2011年05月06日 | 映画(や行)
『八日目の蝉』
監督:成島出
出演:井上真央,永作博美,小池栄子,森口瑤子,田中哲司,
   渡邉このみ,劇団ひとり,余貴美子,風吹ジュン他

「優しかったお母さんは、私を誘拐した人でした」。
このキャッチコピーに引き寄せられ、
角田光代の原作を読んでから観に行ってきました。

大学生の恵理菜は、生まれて間もない頃に父親の不倫相手に誘拐され、
その女に4歳まで育てられた過去を持つ。
両親のもとへは戻ったものの、幼い彼女には知らないおじさんとおばさんにしか見えず、
母親はしばしばヒステリーを起こし、父親は世間から非難を受ける。
もはや普通の家庭を築くことは不可能だった。

人を寄せつけずに生きてきた恵理菜は、大学入学をきっかけに一人暮らしを始めるが、
アルバイトをしていた塾の講師で、既婚者である男と深い関係に。
自分の人生をめちゃくちゃにした誘拐犯を憎んでいたはずなのに、
その女と同じ人生を歩みかけていることに愕然とする。

そんな恵理菜のもとを訪れたのは、千草と名乗る女性。
あの事件について書きたいと言う彼女を最初は冷たくあしらうが、
誘拐犯に育てられていた時期に、千草も同じ施設にいたことがわかり、次第に心を開く。
恵理菜は千草とともに、当時の逃亡生活をたどる旅に出るのだが……。

映画を観てから原作を読む。
原作を読んでから映画を観る。
どちらも優劣はつけられない楽しさがあります。

本作は、あの本をこんなふうに映画化したんだという、
映画ならではの良さがたくさん詰まっていました。

まず原作と異なる箇所がいろいろと興味深いです。
当日は雨。火事もなし。母親の浮気話は出て来ない。
恵理菜に妹はいない。最初に身を寄せる演歌女がいない。
健康診断もなければ、ラブホに住み込みもなし。
これを映画に取り入れたら、余計悲惨になっちゃうのかも。

とても暗くて重い話ですが、
逃亡生活を送る誘拐犯の希和子を演じる永作博美には、常に怯えながらも、
薫と名付けた娘と過ごす間の、とびっきりの笑顔がたくさんあります。

原作にはなかった「おほしさまの歌」のシーンは優しさに溢れ、
映像化された虫送りの神事は幻想的で美しいことこの上なし。
また、映画独自の登場人物、田中泯演じる写真館の主人は、数分間なのに凄い存在感。
写真館でのエピソードは映画ならでは。

その子はまだごはんを食べていません。
朝と晩のちがいはあったけれど、これは胸を突く台詞。
ぜひ、原作と映画、両方どうぞ。

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チャリティー落語会に行きました。

2011年05月02日 | ほぼ非映画(その他)
高校時代から20年ほど前まで、落語が大好きで、
しょっちゅう寄席へ足を運んでいました。

ところが、生来のアマノジャク気質だからか、
NHKの朝の連続ドラマで『ちりとてちん』が始まり、
なんとなく周囲の人が落語を聴き出して
天満天神繁昌亭が連日大入り満員になってからは
めっきり聴かなくなりました。

それでも、落語を取り上げた映画があれば、
やはり気になって観に行きました。
特に『寝ずの番』(2006)は、昔よく拝聴した桂吉朝さんが落語指導をされたと聞き、
お亡くなりになったことを本当に残念に思いながら観ました。

なぜか久々にとても落語を聴きたくなって、
先週の平日の昼間、桂米朝一門のチャリティー落語会へ行ってきました。
昼の部=桂南光さん、夜の部=桂ざこばさんか、
ほならやっぱり昼の部やろ。ざこばさん、すんません。

まずは、二乗、団朝、米輔、米團治、南光による落語5題。
南光さんの闘病日記はさすがというしかなく、大爆笑。

心の中で深く詫びたのは米團治さんの噺を聴いたとき。
いつまでも小米朝の印象が抜けず、ろくに聴きもしないでごめんなさい。
めちゃめちゃおもろいじゃないですか。
吉朝さんがご存命なら襲名されていたはずの米團治。
米朝か米團治か、小米朝さんがどちらを襲名することになっても
ものすごい重圧だったにちがいありません。えらかったなぁ。

中入りの後、桂すずめこと三林京子さんの踊り。
米二、歌之助、雀太、小鯛による小噺があり、
続いて、こごろうと雀喜の漫才。
雀喜さんはこのホールでの初舞台が落語ではなく漫才となってしまったそうな。

まさか落語会で泣かされるとは思いませんでした。
ハーモニカ演奏のむ雀さん。
脳梗塞で倒れ、右半身の自由が利かない彼は、南光さんの介添えで登場し、
『赤とんぼ』と『ふるさと』を演奏。
『ふるさと』では客席のみんなが静かに歌を乗せ、涙止まらず。
ばっちり笑いを取っていた南光さんの感極まっていた姿にもグッ。

ざこば一門の雄壮な和太鼓演奏が終わると、チャリティーオークション。
会場にはざこばさんも現れ、南光さんと最高の掛け合い。
いじられ役に撤した米團治さんも可笑しいのなんのって。
車椅子に乗った米朝師匠の姿にまたしても涙ぐんでしまいました。
どうかいつまでもお元気でいてください。

前述の『阪急電車 片道15分の奇跡』も泣けましたが、こっちのほうが涙ぼろぼろ。

また寄席に行きたくなりました。

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