クーたんとココ君のお家

燕尾服を着た女の子クーたんと神戸から来たやんちゃ坊主ココ君の小さなドラマ。

らいおん

2009-01-14 05:23:39 | Weblog
ある草原にライオンの家族が住んでおりました。家長ライオンは初老期を迎え、たてがみにも白いものが目立つようになり、狩の腕も若い時よりも落ちています。子を一人前に育てた夫婦には、少ない獲物でも充分に暮らして行けました。息子ライオンは、狩の腕も父より上がり、嫁と子と父達の隣で仲良く暮らしていました。
ある朝、家長ライオンは昔から仲良く、獲物を分け合ったりしていた群れの住む村に出掛けました。その村では、ライオン達の力比べが行われており、家長ライオンも、無理矢理リングに上げさせられたのです。昔と全く違う群れの姿に、家長ライオンも妻ライオンも戸惑いました。リングでは、負け残りの試合で、家長ライオンは、サンドバックのように打たれ続けられました。夫婦は力強いライオンに囲まれ、逃げることが出来ません。家長ライオンがノックアウトされると、妻ライオンが標的になり、傷付きました。二人は立ち上がれず、群れのライオンが去るのを見ていました。傷の浅い妻は、夫に手を貸して立ち上がらせました。その時天から
「戦い終わりて勝ち主となりぬ」と言う歌が聞こえて来ました。傷付いた夫婦は無言のまま手を取り合い、足を引きずって、草原の我家に向かいました。遠くの山は夕焼けで赤く染まり、明日の晴れを予言しています。二人の歩みに合わせ「日暮れて四方は暗く我が魂いと寂し」言う歌が聞こえて来ました。家長ライオンは「親友と思っていた者に痛めつけられても、手を取り合う妻が居る。俺は一人ではないんだ」と涙を流しながら、家の扉を開けたのです。
二人の傷は大きく、食事も取れません。その夜は二人で寄り添い眠りました。寒くても二人で居れば、温かに眠れました。翌朝妻ライオンは、池の辺に狩に出ました。傷の大きな夫に新鮮な食事を与えるためです。野兎を咥えて帰り、二人は分け合って食べました。食事をしながら孫ライオンの話をし、昨日の事は一切話しません。家長ライオンには、気遣いをしてくれる、妻ライオンの心が愛おしく「これからの生涯も、彼女が居れば安らげる」と思ったのでした。
おしまい。