ままちゃんのアメリカ

結婚42年目のAZ生まれと東京生まれの空の巣夫婦の思い出/アメリカ事情と家族や社会について。

Goodbye, Mr. C

2017-09-03 | アメリカ事情

欧米系図調査を始めた折に、Western Civilization(西洋史)と合衆国歴史のクラスを再び履修しようと思い立ち、二学期に渡って計4クラスを、仕事後に大学の夜間授業で取ってみた。夫はそこが私のオタクなところと言うが、太平洋のこっち側の歴史をこっち側で知りたかったのだ。そしてこっち側とあっち側(つまり日本)の歴史の見方に、多少のずれや、違いがありそうな予感さえして。新しい推理小説を読むようなワクワク感まで覚えた。


西洋史のプロジェクトで、西洋史上の出来事を言葉ではなく、音楽や写真、絵、写真で表せというのがあって、楽しい教え方だと関心もした。例えば、ルイ14世のベルサイユ宮殿が一つの彼の政策でもあったから、前出したCrosby, Stills, Nash & Youngの曲、Our Houseを使い、Emmeline Pankhurst(エメリン・パンクハースト=婦人参政権運動家)の(男性)社会との戦いを表すのには、ピンクのボクシンググローブの写真を使ったりした。


https://i.pinimg.com/736x/5e/47/5c/5e475cb048f78a329c00c979a9776eb9--emmeline-pankhurst-history-classroom.jpg

婦人参政権のためなら、牢屋に送られても構わなかったEmmeline Pankhurst(エメリン・パンクハースト)


欧州から何故アメリカに移民してきたかを探るのに西洋史や合衆国史に暗いのは、暗闇の中で針仕事をするようなものだ。欧州と合衆国系図調査がメインの私にとって、本当に不可欠である。特に夫の先祖には、French Huguenotsユグノー教徒とQuakersクエーカー教徒がいるのを発見したので、ことさらアメリカに移住した背景をもっと知りたいと思ったのだ。ユグノー教徒については、最初にヴァージニアに到着し、その地にマナキンタウンを設立したグループの一人が夫の先祖である。その子孫が昨日の記事のパトリオット(愛国者)の母親である。


さて、Mr. Cは、合衆国歴史をふたクラス、講義してくれた講師である。警察官から消防士になり、リタイアしてから、大学へ戻り、修士課程を終えて、講師となったそう。人生経験の豊かな、話術に長けたMr.Cのクラスは人気があった。

ケンタッキーが”西部”だった時代、その地を探検、開拓したダニエル・ブーンに講義が差し掛かったある晩、Mr.Cはレプリカだが、ブーンも使ったケンタッキー・ライフルをクラスに持ってきた。


クラスへ来る途中、廊下でばったり学部長に出会い、学部長を驚愕させたと言う。これはレプリカで、Show and Tellのため持参した、と説明したが、後日しっかりお説教はされた、と聞く。とにかくこのライフルレプリカを見せてくれたので、その講義はまるで3Dのように思えた。


ケンタッキーライフルは、大変に長い銃身を持ち、一つ弾を打つと、火薬や鉄の弾を詰めるのにかなり悠長な時間がかるのを理解できた。フレンチ・インディアン戦争でのブーンを含めた合衆国兵の苦労がわかる、そんな生きた授業だった。ダニエル・ブーンの絵に、よく一緒に描かれるのが、このケンタッキーライフルである。


Mr. Cは、授業の合間に体験談をよくしてくれた。消防士になったわけは、警官だった時ワッツの暴動があり、ワッツ住人から、ひどい扱いをされ、もう少し尊敬してもらえる職につこうと、消防士になったそうだ。警官時代と同様、命がけの体験はつきものだが、いくつかの民家の火事の原因が乾燥した大麻だったことなどを話してくれた。リタイアして講師になったのは賢明な決断で、学生にとっては、幸運なことだ。


豊富な人生経験から来るMr. Cの歴史の講義は、どの学生も身を入れて聞く。愛煙家で二時間のクラスの途中に入る5分間の休憩時には、いつも外へ出て喫煙していた。それを見て、学生は、何度禁煙を勧めたことだろう。Mr. Cは自己責任で喫煙しているから、放っておいて、といつも答えていた。


今年確か75歳になるMr.Cは、すでに教職を退いたが、少し前の日付の”Rate My Professors"サイトを覗くと、5点満点で4.6点。0.4は、恐らく愛煙家だということから、引かれているの

かもしれない。Mr. Cが歴史に対する目を開かせてくれた、という評価はたくさんついている。


今は羊を飼うGentleman farmer(趣味で農業をする人)に専念して、コヨーテから羊を守る羊飼い業を楽しんでいるようである。

私の勤める大学は、夏の間静謐なキャンパスだったが、すでに秋学期が始まって二週間、大勢の学生が所狭しとばかりに歩き回っている。私もたくさんの大学院生と応対する忙しい日々だが、この時期になると、いつもMr. Cのことを思い出す。


https://images.gr-assets.com/books/1344264065l/413617.jpg


 

 

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