実は「貸本という文化インフラ」をわたしが執筆担当しました。編集長の了解を得て転載しましたが、今回が最終回です。これを機会にぜひ季刊e誌「Lapiz」ラピスをご購読ください。
書籍と雑誌をあわせた書店の全国売上は、1996年をピークにほぼ毎年減り続けています。2013年の予想売上は17年前と比べて四割減。本屋の数はどんどん減り、閉店廃業してしまった書店は、10数年で1万5千軒ほどという。
この間に図書館は増え続け、年間貸し出し冊数は2010年に7億冊を超え、翌11年には書店の書籍総売上冊数と、図書館の貸し出し冊数は逆転してしまいました。全国3200館以上の公共図書館は恐るべき存在です。しかし個人的には、図書館を重宝しているのはいうまでもないのですが。
現代の有料貸本屋は、おそらくレンタルコミック屋だけでしょう。有料でもやっていけるのは、図書館がマンガ本をほとんど置いていないからです。図書館はマンガ本を除く「無料貸本屋」と揶揄されたりもします。
ところで今年一月のことですが、朝起きたら妻が開口一番「パソコンで図書館の本を予約してほしい」。昨晩からはじまったテレビドラマ「夜行観覧車」を見て、原作本を読みたくなったそうです。湊かなえ著の同題小説で双葉文庫です。
PCで検索してみて驚いた。予約者は75名。京都市内には市立図書館が20館ありますが、在庫所蔵総数は40冊。ほとんどの館が複本で2~3冊在庫しておられる。この日時点で、読んでいる最中の利用者と予約して待っている方の合計は115名にのぼる訳です。定価わずか680円の文庫本ですよ。
連続テレビドラマが好評なので、一ヶ月ほど後に予約者数を調べてみましたが、『夜行観覧車』はなんと300人を突破していました。ベストセラー作家湊かなえ、図書館貸出ベストテン作家でもあるのですが、同じ著者のほかの作品の予約者数は『白ゆき姫殺人事件』528人、『母性』528人、『望郷』297人、『サファイア』280人……。
図書館の活況で困っているのは書店だけではない。著者の印税は減り、出版社も売り上げが低下する。しかし図書館はインフラであり、絶対に欠かせない存在です。ところが図書館の資料費、すなわち書籍雑誌の購入予算は、20世紀末をピークに毎年減っているのです。昨年までの十年間で、全国合計は二割減です。地方自治体の財政は中央政府同様にきびしい。費用対効果計測が困難なサービス部門である図書館予算は、毎年切り詰められているのです。
そこで提案したいのは、公共図書館利用の有料化です。図書館の理念や、いうまでもなく関係法規の障壁といった問題はあるでしょうが、館内閲覧は無料でも、貸出については定価の1パーセント徴収を提案します。収入は当然ですが図書館の充実に当て、料金の上限は一冊100円とする。定価数万円の本であっても100円均一です。
紹介した湊かなえさんの本はすべて文庫化されており、一冊わずか数百円です。小額でも有料化になれば本屋で文庫本を購入する利用者が増え、たいへんな数の予約者は減ります。いつまでも延々と待ち続けることなく、希望の読みたい本を手にすることができます。
日本のリテラシー、教養や娯楽本の供給は二百年にわたって、町の有料貸本屋が担ってきました。現在の図書館の予算的苦境をみると、ライブラリー衰退の危機が近い内に訪れるのではないかと危惧せざるを得ません。わたしたちは図書館という文化インフラかつ文明の象徴を維持し、さらに進化させなければなりません。また著者を守り、出版社、印刷会社、物流取次、書店をこれ以上に苦しめることなく育てるためにも、公共図書館は安価な貸本屋を目指すべきだと、わたしは確信しています。有料化は図書館人にとっては常識はずれの提案でしょうが、決して禁じ手ではないはずです。
<2013年12月29日 完>