前回に引き続き、季刊Eマガジン「Lapiz」(ラピス)3月1日号掲載文の再録。これで完結です。
<東京足立の区立図書館>
雑誌「AERA」が「指定管理者の労働実態 公務員の代替時給180円」と報じた。足立区立図書館での低賃金労働の内部告発である。2013年2月25日号。
元副館長の女性が告発したのだが、低賃金が「あまりにひどいと抗議したら、契約更新を拒否された」という。指定管理者として管理運営を請け負っていた民間会社に彼女は雇われ、区立図書館の副館長をつとめていた。
問題になった労働は、通常業務終了後にパート館員がみなで行っていた資料整理の作業である。賃金は時給に換算すると、180円から500円にしかならない。当然だが、東京都の最低賃金にも届かない。
職員は1年間の有期契約だが、彼女を含め全員が希望すれば契約を更新されて来た。ところが会社に苦情を言い改善を求めたところ、契約更新は拒否され、彼女は退職を強いられた。
法曹界からは「公立図書館の管理運営という本来継続性が要求される業務に指定管理者制度が導入され、職員が有期雇用となることに、構造的な問題があるのではないか。特に副館長は総合的な面から業務を行い、専門的な知識も要求される仕事なのに1年間の有期雇用であるのは不合理」(柿沼真利弁護士)
金山喜昭法政大学教授は、基礎的な技能の習得のほかにも、地域の人たちとのネットワークや信頼関係づくりには時間がかかる。図書館では人材育成が重要課題であり「人件費が若干増加しても、サービスが大幅に向上することも立派な行政改革のひとつであると、自治体は認識するべき」
<民から官に回帰する公立美術館>
全国に公立美術館は600館ちかくあるそうだが、導入していた指定管理者制度を廃止する館も出だした。雑誌「日経ビジネス」が報じた。「彷徨う公立美術館『民から官』に回帰」2014年2月3日号。
芦屋市立美術館は運営をNPO法人に委託していた。3年前の契約更新のとき、人件費削減を告げられた学芸員4人が反発して一斉に退職してしまった。また彼らを信頼して美術品を預けていた寄託者の多くが、貴重な作品を引き上げるという最悪の事態になってしまった。芦屋市が期待した「民による経営合理化」の結末がこの非常事態である。
美術館の業務には、研究や寄託品の調査、また長期間を費やしての企画展という昇華。さまざまの作業がある。わずか1年での雇用更新や、自治体と民間法人との3~5年という有期の契約では、学芸員も育ちようがない。
美術ビジネスで知られる丹青研究所は「文化を後世に残しながら活用していくには、莫大なカネがかかる。個々の美術館だけで運営していくのは難しくなっている」。短絡的な指定管理者制度ではより困難であろう。
民から官へと逆流現象を見せ出した美術館界。全国の経営難にあえぐ公立館を再編し、新中央美術館の元で独自色を打ち出すというグループ化構想も提唱されている。指定管理者制度の功罪がこれから一層問われるであろう。
<未来の図書館>
美術館や博物館などにはわずかでも入場料収入がある。ところが公立図書館は利用料を徴収することが法律で禁じられている。図書館法第11条には「公立図書館は、入館料その他図書資料の利用に対するいかなる対価も徴収してはならない。」
わたしは「Lapiz」前号で図書館資料の貸し出しについて、超安価な利用料徴収を提言した。単に図書館運営の経費捻出のためだけではなく、本の原点である著作者に印税を正当な対価として増加させることなく、無料利用をよしとする考えには納得できない。作家で著作年収が500万円を超えるひとはごく少数という。ほとんどの小説家、ノンフィクション作家の年間収入は、300万円以下ともいう。作家が滅べば、文化も衰退してしまう。
ところで図書館の指定管理者制度について猪谷千香氏は「来館者が増えれば増えるほど、図書館の管理、運営費用も増していくため、営利団体である企業の運営に図書館はなじまない。数年の契約で指定管理者がかわる可能性があるため、専門性の高い司書や職員の人材育成にも向かないーーそういう批判が根強くある」(『つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み』2014年1月刊、ちくま新書)
東京都知事選の表舞台で久しぶりに活躍された小泉純一郎氏。彼の置き土産、指定管理者制度は10余年を経たいま全国で是非が問われている。
<2014年3月21日>
<東京足立の区立図書館>
雑誌「AERA」が「指定管理者の労働実態 公務員の代替時給180円」と報じた。足立区立図書館での低賃金労働の内部告発である。2013年2月25日号。
元副館長の女性が告発したのだが、低賃金が「あまりにひどいと抗議したら、契約更新を拒否された」という。指定管理者として管理運営を請け負っていた民間会社に彼女は雇われ、区立図書館の副館長をつとめていた。
問題になった労働は、通常業務終了後にパート館員がみなで行っていた資料整理の作業である。賃金は時給に換算すると、180円から500円にしかならない。当然だが、東京都の最低賃金にも届かない。
職員は1年間の有期契約だが、彼女を含め全員が希望すれば契約を更新されて来た。ところが会社に苦情を言い改善を求めたところ、契約更新は拒否され、彼女は退職を強いられた。
法曹界からは「公立図書館の管理運営という本来継続性が要求される業務に指定管理者制度が導入され、職員が有期雇用となることに、構造的な問題があるのではないか。特に副館長は総合的な面から業務を行い、専門的な知識も要求される仕事なのに1年間の有期雇用であるのは不合理」(柿沼真利弁護士)
金山喜昭法政大学教授は、基礎的な技能の習得のほかにも、地域の人たちとのネットワークや信頼関係づくりには時間がかかる。図書館では人材育成が重要課題であり「人件費が若干増加しても、サービスが大幅に向上することも立派な行政改革のひとつであると、自治体は認識するべき」
<民から官に回帰する公立美術館>
全国に公立美術館は600館ちかくあるそうだが、導入していた指定管理者制度を廃止する館も出だした。雑誌「日経ビジネス」が報じた。「彷徨う公立美術館『民から官』に回帰」2014年2月3日号。
芦屋市立美術館は運営をNPO法人に委託していた。3年前の契約更新のとき、人件費削減を告げられた学芸員4人が反発して一斉に退職してしまった。また彼らを信頼して美術品を預けていた寄託者の多くが、貴重な作品を引き上げるという最悪の事態になってしまった。芦屋市が期待した「民による経営合理化」の結末がこの非常事態である。
美術館の業務には、研究や寄託品の調査、また長期間を費やしての企画展という昇華。さまざまの作業がある。わずか1年での雇用更新や、自治体と民間法人との3~5年という有期の契約では、学芸員も育ちようがない。
美術ビジネスで知られる丹青研究所は「文化を後世に残しながら活用していくには、莫大なカネがかかる。個々の美術館だけで運営していくのは難しくなっている」。短絡的な指定管理者制度ではより困難であろう。
民から官へと逆流現象を見せ出した美術館界。全国の経営難にあえぐ公立館を再編し、新中央美術館の元で独自色を打ち出すというグループ化構想も提唱されている。指定管理者制度の功罪がこれから一層問われるであろう。
<未来の図書館>
美術館や博物館などにはわずかでも入場料収入がある。ところが公立図書館は利用料を徴収することが法律で禁じられている。図書館法第11条には「公立図書館は、入館料その他図書資料の利用に対するいかなる対価も徴収してはならない。」
わたしは「Lapiz」前号で図書館資料の貸し出しについて、超安価な利用料徴収を提言した。単に図書館運営の経費捻出のためだけではなく、本の原点である著作者に印税を正当な対価として増加させることなく、無料利用をよしとする考えには納得できない。作家で著作年収が500万円を超えるひとはごく少数という。ほとんどの小説家、ノンフィクション作家の年間収入は、300万円以下ともいう。作家が滅べば、文化も衰退してしまう。
ところで図書館の指定管理者制度について猪谷千香氏は「来館者が増えれば増えるほど、図書館の管理、運営費用も増していくため、営利団体である企業の運営に図書館はなじまない。数年の契約で指定管理者がかわる可能性があるため、専門性の高い司書や職員の人材育成にも向かないーーそういう批判が根強くある」(『つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み』2014年1月刊、ちくま新書)
東京都知事選の表舞台で久しぶりに活躍された小泉純一郎氏。彼の置き土産、指定管理者制度は10余年を経たいま全国で是非が問われている。
<2014年3月21日>