ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

イスラム国はアイシル?

2015-01-28 | Weblog
 自民党は1月26日、邦人人質事件をめぐり、過激派「イスラム国」を「ISIL(アイシル)」と呼ぶと決定した。「国」という表現は、独立国家として承認している印象を与える可能性があるためという。政府は早速、表現を「アイシル」に統一したようだが、マスコミ報道はずっとイスラム国のままである。いまの時点ではISILでもISISでもいいと思うのだが、日本国民が誇れるすばらしいジャーナリスト、後藤健二さんの元気で無事な帰国を願うのみ。
 田中宇さんのメルマガですが、一般向け無料版で「安倍イスラエル訪問とISIS人質事件」が参考になりました。不可思議なイスラム国を理解するための一助に、ダイジェストで転載します。全文は下記まで。
http://tanakanews.com/150123ISIS.htm 2015年1月23日 田中宇


 安倍のイスラエル訪問は、3月に予定されているイスラエルの総選挙で、負けそうなネタニヤフを応援する効果ももたらした。3月17日に予定されている総選挙では、国際制裁を無視して違法入植地を広げたり和平交渉を潰したりイスラエル国内のアラブ系住民の市民権を剥奪したがる右派を率いるネタニヤフ首相が、和平交渉の必要性を訴える中道派に破れそうになっている。
 イスラエル右派の米政治団体(AIPACなど)に牛耳られる傾向が強い米議会は、ネタニヤフの挽回を助けようと、2月11日にネタニヤフを米議会に招待して反イランの演説をしてもらうことに決めた。イランはイスラエルの仇敵だが、オバマ大統領はイランと和解しようとしている。ネタニヤフを呼んで演説させ、オバマを非難するのが米議会の狙いだ。オバマは「3月の選挙に近すぎる日程での訪米であり、選挙に影響を与えたくないので会わない」という口実でネタニヤフとの会談を断った。
 オバマとイスラエルの不仲は昨秋から露呈している。米政界は、イスラエル右派に牛耳られ続ける米議会と、イスラエル支配を脱却しようとするオバマとの政争が激化し、一枚岩でなくなっている。日本(権力を握る官僚機構)の国是は対米従属であり、官僚を無力化しようとした民主党政権の反動で官僚の傀儡として成立した安倍政権は特にその傾向が強い。米国の上層部が分裂する中で安倍は、オバマでなく議会を牛耳る軍産イスラエル複合体を従属の対象とみなしているようだ。EUやオバマがネタニヤフを嫌う中で、安倍がイスラエルを訪問したことから、それがうかがえる。
 偶然だろうが、安倍と同時期にマケイン上院議員ら米議会のタカ派議員たちがイスラエルを訪問しており、安倍はイスラエルでマケインらと会って懇談した。マケインは以前、シリアを訪問して反アサド武装勢力と面談して鼓舞し、その中にのちにISISの幹部になる人々が含まれていたことで知られる「隠れISIS支援派」だ。
 イスラエルの選挙で中道派が勝つと、パレスチナ和平を再開し、欧州と再和解して国際制裁を避ける策を採りそうだ(右派が全力で妨害するだろうが)。ネタニヤフが勝つと、和平推進を拒否し、国際法廷(ICC)で有罪になったり経済制裁されるのも無視して、西岸やガザを併合した上でゲットー化する「アパルトヘイト方式の解決」を突き進みそうだ。他国の指導者が選挙でネタニヤフを勝たせようとすることは、中東和平を妨害し、戦争や弾圧を広げる動きだ。安倍首相は中東歴訪で中東和平の推進を呼びかけ続けたが、実際の効果としては和平を潰したいネタニヤフを応援してしまっている。
 安倍がその点を自覚してこの時期にイスラエルを訪問したのかどうかわからない。たぶん、イスラエル右派とつながっている米国のタカ派議員から圧力をかけられ、対米従属の観点から言いなりになってイスラエルを訪問したのだろう。
 石油輸入国である日本は1970年代の石油危機以来、親アラブを貫いてきた。今回の安倍の中東歴訪は、日本が親アラブから親イスラエルに転じる転換点になるかもしれない。サウジアラビアなど湾岸産油国は、米国シェール産業を潰す原油安を加速するため、アジア諸国などに原油をどんどん売りたい。日本が親イスラエルに転じても、サウジは日本に原油を売ってくれる。
 日本が米タカ派から圧力を受けて親イスラエルの傾向を強め、その反動としてISISが誘拐した日本人を殺すぞと脅しても、米タカ派やイスラエルが本当にISISやアルカイダの敵であるなら、米イスラエルと協力してISISと戦う安定した構図が存在しうる。しかし実際は、米タカ派やイスラエルが本当にISISやアルカイダの敵であるかどうか大きな疑問がある。アルカイダや、それがバージョンアップしたISISは、米タカ派やイスラエルが中東支配に好都合な「敵を演じてくれる勢力」として育て、こっそり支援し続けている疑いが濃い。
 正月早々、米軍機がシリアで反ISISの武装勢力に支援する武器を空中から投下したところ「間違って」ISISの駐屯地に武器を投下してしまう事件が起きた。イラクやイランの軍幹部は、米軍が意図してISISに武器を支援したと考えている。
 ISISと最も効果的に戦っているのは米国でなく、イランと、イランに支援されているシリアやイラクの軍隊だ。米国では、オバマがISISと真剣に戦う気があるようだが、国防総省はISISと戦う気がなく、それに気づいたオバマが現場の司令官に直接攻撃を指揮する傾向を強め、国防総省がオバマを煙たがっている。この対立の余波で昨年、ヘーゲル前国防長官が辞任した。
 NYタイムスの07年の記事によると、国防総省はISISの指導者バグダディが存在しない架空の人物であると知っており、アルカイダがイラクに入り込むために架空の指導者をでっち上げて過激組織(のちのISIS)を作っていると報じている。米当局は、架空の人物とわかっているのに今もバグダディをISISの最高指導者として発表し続けている。
 ゴラン高原の国連監視団によると、イスラエルはシリアで負傷したISISの兵士をゴラン高原経由で自国の病院に受け入れて治療している。米軍がヨルダンで訓練したシリアの「穏健派反政府兵士」たちが、イスラエル領のゴラン高原を経由してシリアに入り、ISISに合流している。………
 ISISに捕まった日本人を救出するため、日本政府はISISに関する情報を多く持つ(ISISの生みの親である)イスラエルや米国防総省、米タカ派議員など「軍産イスラエル複合体」に頼る傾向を強めざるを得ない。日本政府が、米イスラエルとISISとの裏のつながりを察知した上で、米タカ派やイスラエルと協調するならまだしも、そうでなく米イスラエルとISISとのつながりを陰謀論扱いして無視して動いているように見えるだけに懸念がつのる。
<2015年1月28日>
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金正恩氏の老人虐待?

2015-01-06 | Weblog
 産経ニュースが1月2日に報じた記事をダイジェストで紹介します。「『飛び込め!』金正恩氏“高齢幹部いじめ疑惑”浮上…80代元老級に10メートルダイブ強要、人心離反の証言」
 全文は以下をご覧ください。
http://www.sankei.com/premium/print/150102/prm1501020


 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が高齢の幹部をいじめているとの疑惑が浮上している。肝いりで造らせたプールやスキー場で、飛び込みやスキーを強要し、元老幹部らが負傷するケースが相次いでいるとの見方があるためだ。子供じみた発想から遊戯施設の建設指示を乱発する金第1書記だが、父の代からの側近らの忠誠心を損ないかねない事態を招いているという。(桜井紀雄)

 金第1書記の側近が朝鮮労働党や朝鮮人民軍の主要行事にたびたび姿を見せないことがあり、さまざまな憶測を呼んできた。だが、労働党元老級幹部と交流のある中朝関係者の証言で、その「原因」の一端が浮かび上がった。

 関係者によると、一昨年10月、平壌の「紋繍(ムンス)プール」の開園式で、最初の“惨事”が起きたという。金第1書記が子供時代に留学したスイスにある有名ウオーターパークを模して造らせた、波の出るプールやウオータースライダーを備えた大規模プールでのことだ。
 金第1書記は李雪主(リ・ソルジュ)夫人や側近らを引き連れ、開園式に訪れたが、金己男(ギナム)党書記(85)と呉克烈(オ・グンリョル)国防副委員長(83)、崔竜海(チェ・リョンヘ)党政治局常務委員(64)の元老級の3人に対し、突然、高さ約10メートルのダイビング台から「飛び込んでみろ」と命じたという。
 3人はぶるぶると後ずさったが、金第1書記は周囲に「ご老体でも、俺がしろという通りにやるんだ」と豪語し、自らの権威を見せつけようとしたとされる。
 結局、このダイブで呉氏が大腿(だいたい)部を骨折し、しばらく動けなくなったという。呉氏は金正日(ジョンイル)総書記時代からの側近で、軍内部に絶大な影響力を保持してきたとされる。だが、このときのけがが元で、年末の「金正恩最高司令官推戴(すいたい)2周年」を記念する集会にも参席できなかったという。


 続く惨事も、金第1書記肝いりの施設で起きたといわれる。東部江原道(カンウォンド)に一昨年12月に完成した「馬息嶺(マシクリョン)スキー場」でのことだ。
 10コースを持ち、一般国民向けには初の本格スキー場で、こちらもスイスに留学した子供時代の思い出を反映させたとみられる。

 子供時代の金第1書記と過ごした経験のある金正日ファミリーの専属料理人、藤本健二氏の著書によると、10代後半になった金第1書記はある日、こう口にしたという。
 「われわれは毎日のように馬に乗ったり、ローラーブレード(スケート)をしたり、バスケットをしたり、夏にはジェットスキーやプールで遊んでいるけど、一般の人民たちはどう過ごしているのかなあ」
 いわば、「プールやスキー場を造れば、人民皆が喜んでくれるはずだ」と当時の思いを純粋に実行に移したわけだ。熱意を傾けたスキー場の早期完成に向け、発破を掛け、10年かかる難工事を1年余りで成し遂げたとたたえる「馬息嶺速度」というスローガンまで流布させた。

 北朝鮮は、2018年の韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪の会場にスキー場を提供する「用意がある」とラブコールを送ったが、韓国側から「実現不可能だ」と一蹴された経緯もあった。
 このスキー場のオープン行事で、70代の金養建(ヤンゴン)党統一戦線部長が金正恩第1書記から初滑りを命じられ、揚げ句、くるぶしを骨折。入退院を繰り返したが、昨年4月にけがが再発し、結局、中国・北京の病院でひそかに手術を受けるはめになったという。
 金養建氏は、健康悪化説が流れたものの、10月に崔竜海氏や、金正恩第1書記の最側近に急浮上した黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長とともに、仁川(インチョン)アジア大会の閉幕式に合わせ、韓国を電撃訪問した。
 金第1書記に忠誠心を示す「名誉の負傷」を負ってまで、最側近の地位を保持しているのであれば、あまりに切ない。

 昨年7月にも、50~60代の海軍幹部らに海で水泳をさせ、金第1書記が監督する姿が国営の朝鮮中央テレビで放映された。
 自慢げに内外に宣伝していることからも、金第1書記が老幹部らにスポーツを強いるのは、悪気もなく、自分の少ない経験から導き出した「スポーツは楽しいに決まっている」という天真爛漫(らんまん)さから来ていることが分かる。故意でないだけに、“高齢者虐待”はとどまることを知らず、幹部らにとってはたまったものではない。

 一連のエピソードを耳にした中国の高官の一人は「10代の学生らが年老いた党幹部らを暴行し、あざけた中国の文化大革命(1966~76年)当時を思い出し、胸が痛む」と吐露したという。
 北朝鮮社会は、社会主義を掲げながら、長幼の礼を重んじる儒教的伝統の影響を色濃く残す。父、金正日総書記も権力を掌握する際、年長の幹部らに細心の敬意を払ったし、金正恩第1書記自身、最高指導者に就任当初は、年長者をいたわるようなそぶりを見せてきた。
 だが、権力基盤を固めるに従って力を注ぐようになったのは、義務教育期間の延長といった次世代育成に向けた諸政策だ。取り巻きは全て自分より年上で、自分と同じか、下の世代の側近を早く育てたいといった焦りもあるのだろう。
 加えて、先に見たプールやスキー場のほか、子供のころに親しんだローラースケートの専用リンクといった「子供向け娯楽施設」の建設ばかりに執心している。

 中国を訪れた北朝鮮の老幹部の一人は、金第1書記の年長の幹部に対する態度に、「孫みたいな分別のないやつの前で、侮辱されるとは。やつをやって、自分も死んでしまいたい心情だ」と金第1書記への不満を思わず漏らしたとも伝えられる。
 この言葉が事実なら、現在の自分を支える老幹部の心が離れていることを示し、事態は深刻だ。北朝鮮の「裸の王様」は、自分の好み通りの遊びに興じているうちに、北朝鮮社会で最も大切だとされるものを見失いつつあるのかもしれない。
<2015年1月6日>
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ソニーを攻撃したハッカー集団は北朝鮮か?

2015-01-05 | Weblog
 米国オバマ大統領は、ソニー・ピクチャーズエンターテインメント(PSE)へのサイバー攻撃は北朝鮮による行為と断定し、またもや経済制裁を強化しました。オバマは1月2日、金融制裁を科すことを認める大統領令に署名しました。
 田中宇氏によると、今回の攻撃について分析したネットに詳しい人々は口々に、公開された情報から北朝鮮の国家的な犯行を断定できる根拠がないと述べ、いずれかの国家による犯行でなく、ネット攻撃を何度もやってきた個人のハッカーがソニーを嫌って行ったか、会社に恨みを持つ従業員か元従業員の犯行と考える方が妥当だと述べている。以下、ダイジェストですが、全文は無料メルマガでどうぞ。 http://tanakanews.com/141229sony.htm

「ソニーネット攻撃北朝鮮犯人説のお粗末 」2014年12月29日 田中宇

 11月21日、米国カリフォルニア州に本社があるソニー・ピクチャーズエンターテインメント(PSE)社のサーバーに何者かが電子的に入り込み、無数の従業員の個人情報、従業員の間のメールの束、パスワード類、同社幹部の給与明細、未公開映画の動画、台本など200ギガバイト分の情報を5-6時間の間にコピーしたうえ、サーバーのハードディスク内の情報をすべて削除するハッキング(クラッキング)を行った。犯人は、この前後にPSEから合計100テラバイト以上の情報をコピーしたとされる。11月24日、コピーされたPSE社の膨大な情報が「平和の守護者」(Guardians of Peace。GOP)と名乗る者によって、プログラマやハッカーらが情報の共有や公開のために使うテキスト共有サイト「ペーストビン」などに投稿され、PSE社のサーバーへの攻撃が明らかになった。
 PSE社のサーバーを破壊した犯人とおぼしき者は、11月21日以降、ソニーグループの首脳陣に犯行声明や金銭要求(さもないとPSE本社を爆破すると脅した)などのメールを何度か送った。メールの送り主は「平和の守護者」だけでなく、「God'sApstls」(これと同じ名前のファイルが、攻撃されたPSEのサーバー内に残っていた)からのものもあった。米政府は、北朝鮮の金正恩を暗殺する映画「ザ・インタビュー」の公開を阻止するためのサーバー攻撃だと断定しているが、犯人とおぼしき者がソニー幹部に送りつけてきたメールの中でこの映画に言及し始めたのは、米国などのマスコミが12月8日に、この映画と関連した攻撃でないかと報じ始めてから1週間以上たった12月16日に送ってきたメールからだった。マスコミが報じるまで、犯人とおぼしき者はソニーに映画の封切りを中止せよと要求することをしていなかった。
 12月19日、FBI(米連邦捜査局)が、北朝鮮の犯行と断定し、オバマ大統領は北朝鮮の犯行を非難する声明を出した。しかし、今回の攻撃について分析したネットに詳しい人々(ハッカー)は口々に、公開された情報から北朝鮮の国家的な犯行を断定できる根拠がないと述べ、いずれかの国家による犯行でなく、ネット攻撃を何度もやってきた個人のハッカー(クラッカー)がソニーを嫌って行ったか、会社に恨みを持つ従業員か元従業員の犯行と考える方が妥当だと述べている。米当局が発表せず機密にしてある情報の中に決定的な証拠があるのかもしれないが、それが発表されない限り北朝鮮犯人説を支持できないと、何人かのネット業界人が表明している。
 北朝鮮政府は、この映画の制作が明らかになった今年7月から、現役の国家元首を暗殺する映画を作ることはその国家への冒涜であり許されるべきでないと国連で訴え、映画の制作中止を求めてきた。米マスコミがPSEへの攻撃をこの映画との関連で報じ始めた当初、北朝鮮の国営通信社は「わが国の同調者がPSEのサーバーを破壊したのなら、それはあんな映画を作ったことへの正当な報復だ」とする、北犯行説を認めるかのような論調の記事を流したが、その後、北の政府は犯行を否定している。
 公開情報の中で、北犯人説を支えるものの一つに、犯人がPSEのサーバーに残したファイルを米当局が解析したところ、システム(OS)の言語設定を韓国語(朝鮮語)にしたパソコンで作成(コンパイル)したファイルがあったので、韓国朝鮮語を母語とする者の犯行に違いないというのがある。しかし、ネット攻撃を仕掛ける者の常套手段は、犯行に使うファイルを作成する際のOSの言語設定を意図的に自分の母語と違うものにするおとり策だ。韓国朝鮮語のOSが使われたことは、むしろ犯人が北朝鮮でなく、北犯人説を流布させたい他の母語の者であることを示唆している。
 北犯人説を支えるもう一つの根拠は、犯人はPSEのサーバーのデータを全削除するプログラムとして「RawDisk」を使ったことだ。このプログラムは、昨年に韓国の銀行やマスコミのサーバーがデータ全削除の攻撃を受けた事件の際にも使われた。この件は北朝鮮の犯行とされているので、今回も北の犯行だろうという主張だ。しかしこれも、そもそも韓国へのネット攻撃が北朝鮮の犯行だと断定できる根拠がない。しかもRawDiskは他のいくつかの全削除攻撃でも使われている。RawDiskを使ったから北朝鮮の犯行だとは言えない。
 攻撃の際に迂回場所として使われた経由サーバー(公開プロクシ)が、北朝鮮が過去にやった攻撃で使ったことがあるものだったというのも北犯行説の根拠の一つとされる。だがそれらの公開プロクシは、ネットの知識が少しある者なら誰でも使っているもので、北犯行説の根拠に全くならない。すでに書いたように、そもそも「北朝鮮が過去にやった攻撃」が北の犯行であるという根拠自体が薄い。手慣れた者によるネット攻撃は、痕跡の状況証拠から犯人を特定できることがほとんどない。状況証拠から北犯人説を立証するのは困難だ。
 逆に、今回の攻撃が北朝鮮など国家の犯行でなく、個人のハッカーの犯行であると考えられる根拠がいくつもある。一つは、国家ぐるみの犯行なら、ばれると被害者の国からの報復が必至なので犯行を隠すのが常識だ。攻撃の成果物をハッカーが集う「ペーストビン」で発表することなどあり得ない。ソニーの経営陣の給与明細を盗んでペーストビンにさらすのは、大金持ちの屋敷から盗んだ家具や財宝を河原にぶちまけて貧乏人が拾うに任せたという反国家的な勧善懲悪の泥棒の伝説(鼠小僧など)を思い起こさせる。国家の犯行なら「平和の守護者」などと格好つけた名前で犯行声明を出すのもおかしい。
 北朝鮮は、国家全体で1024個しかIPアドレスを使っていない。ネット企業の1社分だ。日本は2億個、米国は10億個のIPアドレスを使っており、北朝鮮のインターネットの規模がいかに小さいかわかる。犯人がPSEのサーバーから盗んだとされる100テラバイトの情報量を北朝鮮のコンピュータに転送したら、そのデータ転送によって北朝鮮のインターネット回線がパンク状態になると指摘されている。
 米政府が北犯人説を発表した3日後の12月22日には、北朝鮮のネット全体が1日ダウンした。米当局が報復的なネット攻撃を北に仕掛けたのでないかと報じられている。攻撃されたら全国的にネットが潰れる貧弱なネットインフラしか持たない北が、今回のような派手なネット攻撃を仕掛けるものなのか疑問視するハッカーが米国に多い。
 時間がたつにつれて、北犯行説よりも、ソニー内部犯行説の方が注目されるようになっている。ソニーはグループとして業績が悪化し、解雇される従業員が増えた。クビにされそうになって自社のシステムを破壊したり経営陣の給与明細をネットにさらそうとするシステム部門の社員が出てきても不思議でない。今回の攻撃で犯人は、あらかじめサーバーのパスワードを書き込んだプログラムを作って動かし、PSEのサーバーに侵入した。通常、犯人は標的のサーバーのパスワードを知らないので、侵入時に試行錯誤してパスワードを盗み出す手法をとる。対照的に、今回の犯人はパスワードをあらかじめ知っており、内部犯行の可能性が高い。(中略)
 北犯行説が政治的に勃興してくるまで、ソニー自身もFBIも、内部犯人説を最も重視し、FBIはソニー全体のシステム部門の社員を次々に尋問していた。ソニーのシステムは、パスワードが「password」という名前のディレクトリに入っているなどセキュリティが甘いと以前から指摘されてきた。内部犯行だとソニー自身の責任が問われるし、個人情報を漏洩された社員や元社員が集団でソニーを訴訟しかねないが、北が犯人ならそのような心配がない。ソニーは、米当局が北犯行説に突然転じたのを大歓迎した。
 米国のネットセキュリティ企業の専門家の一人(Kurt Stammberger)は、今年5月まで10年間ソニーグループのシステム部門で働いていた「レナ」というニックネームの女性が、自分を辞めさせたソニーに恨みを持ち、犯行声明を出した「平和の守護者」の一員として事件に関与したと述べている
 今回の攻撃が行われたのと同時期の11月21日に、PSEの執行副社長・広報最高責任者(Charles Sipkins)が辞任しており、その辞任との関係で内部犯行を疑っている記事もある。PSEの本社がある米国でなく、PSEとLANでつながっている東京のソニー本社からPSEのサーバーのデータが盗み出された上で破壊されたのでないかという説もある。日本のマスコミはPSEネット攻撃を完全に米国の事件として他人事のように報じているが、この事件は東京が裏の舞台だという指摘もある。米国では北犯行説に立って「東京にある朝鮮総連は、北のネット攻撃の実働部隊だ」といった説もあるが、北犯行説の根拠が薄いことを考えると、東京の焦点は朝鮮総連でなくソニー本社だろう。
 ソニーは当初、12月25日に予定されていた映画「ザ・インタビュー」の封切りを遅らせると発表し、オバマ大統領に「北朝鮮の独裁者による検閲に屈するのは間違いだ」と批判された。ソニーは「弊社は予定どおり封切りしたいのに、映画館が(北などによる爆破テロを恐れて)封切りしたがらない」と弁明した。ソニーは、インターネットやビデオオンデマンドの有料コンテンツとしての公開も検討していたが、それも「受けてくれる会社がない」として延期する感じだった。
 しかし、PSE攻撃北犯人説の騒ぎでこの映画の存在が一躍有名になり、映画は予定どおり12月25日に一部の映画館で封切られ「愛国的(軽信的)な米国市民」が映画館に行列する光景が報じられた。「受けてくれる会社がない」というのもウソで、ユーチューブやグーグルプレイなどオンラインでも有料公開された。PSE攻撃は結局のところ、この映画の宣伝活動としてこの上なく効果的なものになった。ソニーがこの攻撃事件を途中から意識的に映画の宣伝活動として使ったのでないかとの見方も出ている。
 オバマは米憲法の「表現の自由」を盾に、ソニーに映画の封切りを遅らせるなと求めたが、実のところ米政府には、映画を公開したい理由として、表現の自由より大事な要件があった。PSE攻撃でネット上に暴露されたソニー幹部たちの電子メールの一つによると、PSEの「ザ・インタビュー」の制作に、米政府の国務省が絡んでいた。国務省は、最後に金正恩が暗殺されるこの映画が海賊版DVDなどのかたちで北朝鮮に密輸入され北の市民が映画を見ることで、実際に金正恩を暗殺しようとする北の国内の動きを加速することを期待し、早い段階からこの映画の制作に関与した。ソニーのトップは北の激怒を恐れ、金正恩が殺される筋書きを敬遠したが、国務省が横やりを入れ、正恩の殺害で映画が終わるようにさせた。
 北朝鮮の人々は、幼少時から絶え間ないプロパガンダで洗脳され、金正恩(金一族)を心底尊敬している人が多い。北で、この映画の密輸に手を貸したり、映画を家でこっそり見る人は多分まったくいない。そもそも、自国の元首が暗殺される外国製の映画を見たいと思う国民は、どこの国でもほとんどいない。米国務省の戦略はお門違いで、北の市民の反米ナショナリズムを煽るだけだ。
 加えて、米政府がほとんど根拠なしに北の犯行だと断定したこともお粗末すぎる。米当局は、世界中の通信を盗み見できるNSA(国家安全保障局)の通信傍受システムを持っているのに、薄弱な証拠しか提示できない。客観的な捜査の結果でなく、北の政権を転覆したいという政治的な戦略に引っ張られ、北犯人説を断定してしまった。根拠の薄弱さが米政府に対する国際信用を落とし、濡れ衣をかけられた北の国内をむしろ結束させ、政権転覆戦略自体を失敗させている。近年の米政府は、イラク侵攻、イラン核開発問題、シリア内戦、ウクライナ危機など、お粗末な戦略だらけだ。なぜ米国は、こんなにお粗末な策を繰り返すのだろうか。(後略)
<2015年1月5日>
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物言う魚 第6回最終回<世界各地の物言う魚>

2015-01-04 | Weblog
海霊や霊魚について後藤明は「言葉を話すという人間的特性を付与し、水を司る霊的存在と考える思考は東南アジアや南太平洋地域では一般的である」。オーストロネシア民族を中心に海霊的な観念が発達し、その流れが日本の南島にも及び、さらにもっと深いところで、日本各地の「物言う魚」の観念と関係しているのではないかと、後藤は著書『「物言う魚」たち 鰻・蛇の南島神話』に記している。
 しかしすでにみたように、世界各地の神話伝説を読み解くと、洪水や津波や海進を予告し、特定の人物の生命を助ける霊魚は、メソポタミアにも古代中国、そして古代インドにもあきらかに存在した。数千年あるいは一万年ほどの昔から、人類は海神の眷族や遣いとして、物言う霊魚を信じてきた。この深い信仰を滅ぼしたのは、ひとつには人類の文明文化の発展、すなわち合理的思考法による迷信の放棄ではなかろうか。そしてもうひとつは、一神教のキリスト教などが邪教である<魚神>を捨てたことによるのではないか。ギルガメシュの魚神エアと、ノアの神ヤハヴェの対比は、その真理を語っているように思える。シュメールでも、ギルガメシュ叙事詩でも、大洪水のなか箱舟で助かったのは半魚神エアの警告のおかげであった。この神話は後の旧約聖書「ノアの方舟」の原型である。
 またインドでは、人類の祖マヌが魚神ガーシャの予告で箱舟をつくり、洪水が起きたときには魚の角にロープをかけ、ヒマラヤの山まで運ばれた。これもメソポタミアの洪水神話に非常によく似ている。
 古代中国では夏王朝をひらいた禹。中国初代の王である彼は、黄河の氾濫を防ぐ治水にはじめて成功した。その姿は半人半魚で描かれる。また大水害を逃れた女媧は、ヒョウタンとされる箱舟で生きのびた。

 ところで、柳田が注目した『宮古島舊史』が書かれたのは寛延元年、西暦1748年である。「先島諸島大津波」(1771年)はその前に襲来したと、わたしは思いこんでいた。ところが順序は逆だった。驚いたことに、巨大な津波の23年前にこの本は記されている。津波来襲は、本が書かれた後だった。
 おそらく、宮古・八重山列島、さらには魚釣島などの尖閣諸島にも、過去に何度も大津波は襲来したのだろう。また南太平洋、東南アジア沿岸部を中心に、世界に広がる類似伝説や昔話から、わたしたちの集合的無意識に刻まれた「洪水・津波神話」のことを考えざるを得ない。
 そして中近東の有名な神話「ノアの方舟」が最たる例のひとつである。神の言うとてつもない話を信じる者だけが、生命を救われ、大いなる幸運を得る。神の声を聞くことができる人間は、ごくまれのようだ。箱舟の主ノア、そして伊良部島の幼な児とその母、若狭の比丘尼、馬鹿なハンス、古代インドのマヌ、魚神エアに従ったギルガメシュも、みな希少なそのひとりであったようだ。

 1万数千年前のこと、氷河期が終わり海面は最大150mほども上昇したという。霊魚と洪水、津波や海進の神話は、元来は人類の古い記憶の底辺から誕生したのであろうとわたしは信じている。集合的無意識と化した海進だが、ほぼ1万2千年前に始まり6千年ほど前にやっと収まった。海洋の極端な増水である海進は、津波や洪水と違って押し寄せて来た大量の水がなかなか引いてはくれない。巨大水害は人類の恐怖体験である。
 地球の北方では高さ3千mほどの氷床が溶け、その重みから解放された北の大地は大きく隆起したという。一方、大洋は増加した海水の重量のために大きく陥没したであろう。大地は激しく揺れ動き、地震・洪水・津波そして海進と火山の噴火が続く。地球規模での大動乱の時代であったであろう。日本列島の祖先たちも、縄文時代人が体験した大自然の激動であった。<賀正 2015年1月4日 南浦邦仁>
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