「人間とロボットの共生」
賢くなったロボットや人工知能AIと、人間とがどう折り合いをつけ、人にとって幸福な共存生活をどうやって営んでいくかを、真剣に考え始めるべき時期に来ている。ロボットの採用は、人手不足の業種や危険作業などからはじまっている。しかし人工知能の進化とあいまって、どんどん人間から仕事を奪ってしまうようにもなりつつある。松原仁氏(はこだて未来大学教授)はそのように述べておられる。
工場の産業用ロボットは有名だが、人間が近づけない原子炉内を調べるロボの完成も近いようだ。農業用もかなり開発されつつある。介護や医療ロボも活躍している。チェスや将棋のプロもコンピュータロボAIに完敗している。
アマゾンの倉庫ではロボットが走り回ってピックアップ作業で活躍している。すでに複数の巨大な物流センターで合計500台以上の集品ロボが活躍している。
ドローン(無人飛行機)は雑誌ディアゴスティーニで組み立てられるほどに普及しはじめた。宅配便にかわる輸送手段として注目されている。軽量の荷物専用だが、自宅まで運ぶ実験が進みだした。またインフラの老朽化調査や警備などにドローンの力は欠かせない。セコムのドローンは深夜、工場や倉庫で不法侵入者を見張っている。ドローンは2020年の東京オリンピックでも上空からの監視と情報収集や、事故や犯罪の防止に活躍する予定であるという。五輪のこの年だけ、警備会社は社員を増やすことは不可能である。各社ともロボットの活用をいま真剣に模索している。
運転手のいない無人自動車はすでに実用化されている。普通乗用車は一般公道で無人運転の試験中だが、オーストラリアでは巨大な無人ダンプトラックが走り回っている。タイヤ直径だけで4メートル近い。一度に300トンの鉄鉱石を運ぶというからすごい。ドライバーは運転席には不在である。建機・鉱山機械メーカーのコマツ製だ。
東短リサーチ㈱の加藤出氏は次のように語っている。豪では、中国需要の高まりによる数年前までの鉄鉱石ブームの際に、採掘場でダンプカー運転手の不足が深刻になり、彼らの年収が2000万円以上に一時跳ね上がったことがあった。しかし、そうなると、経営者はコスト削減と運転手不足のリスクを最小化するために、アルゴリズムで自動運転するダンプカーを大規模に導入した。これは運転者の賃金を下落させる方向に働く。今後、技術的課題をいくつか乗り越えれば、自立運転の車の普及が広範囲に進み、運転手に対する求人は全般的に減少していく。
米国のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によると、産業用ロボットの利用を拡大することで、日本企業は人件費を25年には14年に比べて25%削減できる見込みという。「安価な人件費を求めて、生産拠点を海外に移す動きは終わる」とBCGは断言している。
人工知能の例だが、アメリカではまったく新しい会計ソフトが出現し、会計士が数万人も失業した。この会計ソフトは、単に金額を整理するだけではなく、税金を減らすこともできるそうだ。テクノロジー失業という新語が生まれたという。
人工音声を使ったコミュニケーション技術も急速に進んでいる。カタログ通販に電話して、オペレーターと話しているつもりが、相手は実は機械だったという時代がもうすぐ来るだろう。
労働人口の減少、人手不足から自動化・ロボット化の飛躍的拡大導入がはじまっている。しかしこの動きがエスカレートすると、コストの安いロボットが人間の仕事を奪ってしまう。
たとえば自動車の製造工場で、溶接や塗装で産業用ロボットがずいぶん前から活躍している。わたしもトヨタのプリウス工場へ見学に行ったことがあるが、将来は組み立て作業や完成車検査、走行試験、さらには設計など、現在は人間が行っている作業までロボットがこなす可能性がないとはいえない。
ロボットは一時も休むことなく、1台が24時間働き続けることができる。8時間労働の人間3人分の仕事を延々と疲れることなく続けることができるのだ。ロボットばかりが働く無人工場の映像をみたことがあるが、照明は消され空調もほとんで効いていない。そのような工場で、ロボットが黙々と働いている。
ロボットの大量採用は人口減の社会では必要であろう。しかしロボットと人間の良好な関係性、どのように共存するかが問われようとしている。またロボットが生産した成果の富を、いかに非生産者である人間に分配するのか。問題は山積している。
一段と期待されるロボットとAIについて、これからも注目して行こうと思っている。
<2015年3月28日 南浦邦仁>