ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

空の産業革命・ドローン(3)

2015-06-25 | Weblog
○活躍する無人飛行機

 民生用小型飛行機の活躍は近年にはじまったばかりといえるが、近ごろでは「空の産業革命」とも呼ばれている。事故一覧をまず見たが、つぎはその活躍の事例をみてみよう。
 マルチコプターは映画やテレビ番組の空撮で活躍している。TVやインターネットなどの映像を見ていると、「あっ無人機での撮影だな」と気付くことが増えた。昨年2月のソチ冬季五輪では、雪上をスキーで滑走する選手を上空からマルチコプターが追う臨場感あふれる映像が話題になった。
 自録りもさかんだ。腕時計型超小型機を飛ばして、急峻な岩場を登る自分の姿を写させる。また激流を行くカヌーの自分や、自転車で疾走する自己の姿を上空から撮影させるフォローミーモード。そして撮影後は持ち主の手元にブーメランモードで帰り、時計のように手首に収まる。トランスフォーマー型腕時計式UAVだが、夢のような超小型機がすでに登場した。
 子どもが常時携帯し、誘拐や事故などの非常時には飛びあがって異常事態を撮影する。そして映像を保護者に緊急送信する。子ども安全コプターもまもなく発表されそうだ。のび太を見守るドラえもんの竹コプターに似ているかもしれない。
彷徨する認知症者にも応用できそうだ。自宅などの基点から設定した距離以上に離れたら、自宅の愛機が離陸するというのはどうだろう。フォローミーで撮影しながら、通信機能で家族に連絡を入れる。
広島の土砂災害時には、人間が危険で調査に入れない山間の谷に国交省の無人コプターが被災地の撮影作業を行った。ごく最近では地震で甚大な被害を受けたネパール。世界中から救援チームが災害救助犬とともにたくさんのマルチコプターを持ち込み、生存者の探索、被害状況の把握、情報収集などに活用した。また火山の火口や噴火時の調査でも活躍している。

 アマゾンがまず提唱した空の宅配便だが、実験はかなり進んでいるそうだ。アメリカは飛行規制がきびしいので、主にカナダで進行しているそうだ。ヨーロッパをみてもドイツ最大手のドイツポストが取り組んでいる。
 配送の面白い利用法としては、シンガポールのレストランの配膳がある。人件費の高い同国では従業員の採用がむずかしい。そこで店主が開発したのが、マルチコプターの上にお盆を固定し、客が注文した料理を載せて運搬する方式。この店がニュースで世界に配信されると、店に入り切れないほどの利用客と見学者が各地から押し寄せて来た。世界で最も有名な無人配膳レストランだそうだ。
 日本でも同様の方式を導入すれば、テレビやマスコミが取り上げる。ネット配信で世界中に知れ渡り、売上倍増は間違いなかろう。回転寿司屋で採用し、レールは廃止し、プロペラのマルチ回転の無人機寿司屋というのはいかがだろうか。

 屋外での無人機宅配も実用化実験が進んでいる。「瀬戸内の海を海上輸送研究の一大拠点にしたい」と離島航空宅配便にチャレンジする高松市在住の小野正人氏の意気込みである。
 高松東港と8キロ離れた男木島を、重量1キロまでの荷物を積載して片道20分で運ぶ。アマゾンのプライムエア宅配のニュースでひらめき「空飛ぶカモメの宅配便 Kamome Airプロジェクト」と名づけた小野さんのプロジェクトは、2014年はじめから計画をスタートした。「不便な島の生活を豊かにしたい」
 マルチコプターは1機100万円もする特注品だが、資金は賛同するたくさんの市民からの出資を受けた。取りあえずは医薬品など緊急物資輸送から開始するが、いずれは日用品を運ぶ事業に発展させるのが目標だそうだ。
無人機はふたつの港の波止場間を飛ぶ。途中の飛行路は海上である。何らかの不調で墜落することがあっても、人身事故はまずない。機の自損はかわいそうだが、人間に危害は与えないこころ優しい機体である。
 瀬戸内海とは別の実験だが、救命用AED(自動体外式除細動器)の無人機による緊急輸送も検討されている。野外などでAEDが必要な事態が生じると、登録された周辺のAED所在地が消防署などで検索され、最も近い場所の機器地点までマルチコプターが飛ぶ。そしてAEDを装着し、倒れたひとのもとに全速で飛行する。

 インフラ施設の点検にもマルチコプターは利用されている。急峻な山中や水中などに立つ橋脚の傷み具合の点検は、人力ではむずかしい。高いダムの内外のひび割れ調査なども同様である。ただし水中はロボットが受け持つ。
 東日本高速道路会社では道路の橋梁点検用にカナダ製のマルチローターヘリ「スカウト」を5機購入した。本来は軍用に開発された高性能無人機で、1機1000万円もする。急峻な山岳地に立地する橋梁や脚の高いものを取りあえず30橋ほど調べるが、自主ルールを厳格化している。「市街地では使用しない」「道路の真上を横断させない」「何か異常を感知すれば、緊急帰還させる」など。
 なお道路会社は機体メーカーのカナダ「エリヨン」社と代理店契約を結んだ。運用ノウハウを蓄積し、同様のインフラ調査を行う会社への技術指導やマルチコプターの販売とリースを計画している。

 虫か鳥のように飛行する無人機の活躍の場はいくらでもある。いくつかの例を列挙するが、これからも驚くような利用方法がどんどん現れて来る。アイデアひとつで企業化も可能な、まさに空の産業革命黎明期だそうだ。
 農業ではこれまでオーソドックスな無人ヘリコプターによる農薬や肥料の散布がずいぶん前から行われていた。かなり大きなヘリを飛ばすのだが、日本の技術が世界の先端を行っていた。しかし高額で操縦のむずかしいヘリは爆発的なヒットにはなれなかった。
 小型のマルチコプターでは農作物の生育状況や病気や害虫の調査に利用される。林業では発芽種を空から撒き、森林の再生に利用されている。漁業では漁群や水質の調査。
 爆音を発しないので、野生動物の調査にも利用されている。ヒツジ飼いUAVというのも可能かもしれない。

 工事現場では空からの測量で精密な3D図面をリアルタイムで作成する。「トプコン」の技術が有名だが、建設機械大手「コマツ」の担当者はマルチコプター測量について「劇的な変化で、もはや欠かせない機器だ」
 警備会社でも活用している。建物や敷地内に夜間、侵入者があると、突然マルチコプターが地上から発進浮上し強烈な照明を当てる。「あなたは誰だ。入場許可は得ているか? 君の行動はすべて撮影されている」と無人機が警告する。侵入者が逃げようとすると飛行体が追いかけ、相手の車の車番を撮影する。警備会社「セコム」の担当者は「従来の固定カメラに比べ、警備の精度が大幅に高まった」
<2015年6月25日>

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空の産業革命・ドローン(2)

2015-06-13 | Weblog
○ドローンは殺人兵器

 ドローンは本来、アメリカが多用する軍事用の大型無人機の呼称である。セスナ機ほどのサイズの長い翼を持つ飛行体がアメリカ本土の基地で遠隔操作され、イランやシリア、イエメンやパキスタン、コソボ、アフガニスタンなどでミサイル攻撃を繰り返してきた。パイロットのいない無人の殺人航空機である。
 米CIAによれば、前のブッシュ大統領の時代にイエメンとパキスタンで50回、オバマ大統領の1期目だけで400回以上の無人機による攻撃を行った。その結果3300人ものアルカイダやタリバンなどのテロリストを殺害した。
 国連人権理事会に2013年に提出された無人機ドローンによる攻撃の調査報告書によれば、パキスタンでは04年以降、330回の攻撃で少なくとも2200人が死亡。そのうち少なくとも400人の文民が殺害された。
 なおパキスタン外務省は、ドローンによる無実なパキスタン国民の推計死者数は約1500人であると抗議している。

 アメリカ以外でも軍事用ドローンを活用している国はいくつもある。たとえばイスラエルはレバノンとパレスチナで毎日のように飛ばしている。パレスチナのガザでは近年、たくさんの民間人がイスラエルのドローンによって殺害された。
 そんな訳で、わたしは民生用や産業用の無人飛行機をドローンと呼ぶことには抵抗がある。ドローンは軍が多用する偵察と攻撃用の殺人兵器である。
 なお民生用の小型無人機はほとんどが3基以上のプロペラを備えている。最も多いのは4基ローター(回転翼)だが、それらをマルチローター・コプターと呼ぶべきであろう。短縮して「マルチコプター」、あるいは小型無人機、民生用UAV(Unmanned Aerial Vehicle)などとわたしは原則として記す。
 民生用無人機の事故や事件をみた通り、亡くなったひとは幸いひとりもいない。ところが軍用ドローンで殺害されたひとは数千人にのぼる。
<2015年6月13日>

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空の産業革命・ドローン(1)            

2015-06-07 | Weblog
 好評のeマガジン「LAPIZ」(ラピス)夏号が刊行されました。「Amazon」「DL MARKET」「雑誌ONLINE」で購読できます。良記事満載で頒価はわずか300円。
 今回も寄稿しました。タイトルは「空の産業革命」。マガジンでは全文一括掲載ですが、ここではドローンについて4分割連載します。ご笑覧くださればうれしいです。

 
○ドローンによる事故と事件

 無人の小型飛行機「ドローン」の評判が、善悪ともにすごい。今年1月にはホワイトハウスの庭に、マルチコプターのドローンが墜ちて来た。当初はテロ攻撃と判断され、大統領警護のシークレットサービスには緊張が走った。
 そして4月には、東京の首相官邸屋上で壊れたドローンが発見された。いつからその場所に落下していたのか不明だった。ホワイトハウスの経験を、日本の警備陣は活かせなかった。テロに対していかに無防備か、国民は情けないほど知らされた。
 ドローンによる事件や事故は、日本だけでも年間数百件にのぼるという。爆発的な普及と相まって、その件数は飛躍的に増大しそうだ。
 この2年間ほどの間に、世界で起きた事件事故をいくらかピックアップしてみた。

2013年10月 ニューヨークのビルのバルコニーから飛ばしたドローンが、グランドセントラル駅に向かって歩いていた歩行者の脚元に墜落した。

2013年12月 アメリカでアマゾンの配達用ドローン「アマゾン・プライムエアー」が発表された。この日、ほとんどのひとが「アマゾンは何を考えているのか? 季節はずれのエイプリルフールだな」などと、アマゾンの新構想を理解できず、馬鹿にし笑っていた。しかし1年半ほどたったいま、笑うひとはひとりもいないであろう。ドローンにとって最高の事件のひとつはこの発表だったのかもしれない。


2014年4月 オーストラリアのトライアスロン競技中、ドローンが落下し選手の頭部を直撃した。

2014年4月 名古屋オアシス21テレビ塔周辺の夜景を空撮していたドローンが墜落。コウモリにぶつかったためとみられる。幸い負傷者は出なかったが、繁華街上空でしかも夜間飛行というのは危険きわまりない。しかし鋭敏なはずのコウモリのレーダーは不調だったのだろうか。

2014年7月 英ヒースロー空港付近の高度210米あたりで、ドローンと民間エアバス機が異常接近した。

2014年7月 ニューヨークでヘリコプターにドローンが接近し大事故も起こりえた。操縦者らふたりが逮捕された。

2014年8月 米ワイオミングのイエローストン国立公園内で、旅行者がドローンを飛ばして事故を起こした。米国の国立公園内では無許可のドローン飛行が禁止されている。

2014年11月 神奈川県で開催された湘南国際マラソンのコース付近で空撮用のドローン(重量4キロ)が落下。近くにいた女性スタッフが顔に傷を負った。協賛会社のプロモーション映像の撮影中だった。
 翌年の5月、事故を起こした空撮会社「フライトエディット」の担当者と同社が神奈川県警から書類送検された。同社は大会スポンサーの依頼で空撮を実施。しかし近くで別の会社のドローンも空撮をすると知り、混信のリスクを避けるため周波数の異なる送信機を一時的に使った。電波法を所管する総務省は「上空から電波が出るので遮るものがなく、妨害電波の影響が広範囲に出る可能性があった」。撮影者は5.8ギガヘルツ帯の電波を使用するカメラ画像伝送用の送信機を無許可で取り付けた。総務省によると、ドローンを無線局の不法開設場所とした摘発は全国初である。

2014年12月 英マンチェスターのレストランで、クリスマスのイベントとして店内で飛ばしたドローンが落下し、女性客が軽傷を負った。

2015年1月 酒に酔った米政府の男性職員が、女性に見せるためにドローンを操縦していたところ、コントロールできない状態になり、たまたまホワイトハウスの敷地内に墜落した。大統領警護のシークレットサービスは、テロ攻撃であろうとみなして一時騒然となった。

2015年1月 米国と国境を接するメキシコ北部の町ティアナに、麻薬を積んだ小型無人機が墜落した。6枚プロペラの小型ドローンだが、3キロ近くの合成麻薬が重く、過積載だった。無人機は重量に耐えきれず、アメリカまで届かずに国境直前で、メキシコのスーパー駐車場に落下した。

2015年1月 琉球新報社写真映像部の記者が空撮用ドローンの訓練中、機体が制御不能になり、敷地外で行方不明になってしまった。

2015年4月 首相官邸屋上で微量の放射線を発するドローンが発見された。威力業務妨害で福井県の男性が逮捕された。犯人は「デモ以上、テロ未満の方法を選んだ」と話している。
 官邸は警備を怠っていなかったというが、ホワイトハウス事件の直後に、ドローンによるテロを想定した万全の対策をなぜ取らなかったのか。いつ飛来したかも特定できないまま屋上に上がった警備員が偶然発見した、では能天気のそしりを免れまい。危機管理の司令塔であるはずの首相官邸がテロに無防備だった事態はまさに「日本として恥ずかしい」と二階俊博自民党総務会長は語っている。なお屋上ドローンの発見は、落下日のおよそ二週間後だった。

2015年4月 テレビ局「TOKYO MX」東京メトロポリタンテレビジョンの番組スタッフが資料撮影用に飛ばしたドローンが、誤って近くの英国大使館に墜落した。

2015年5月 長野県の善光寺で15歳少年が飛ばしたドローンが行列に落下。7年に一度の御開帳法要で9日のこの日、たくさんの参詣人が集まっていた。混雑するなか怪我人の出なかったのが不思議なほどだ。一週間ほど後、同じ少年が14日15日、東京の浅草神社や国会議事堂付近でドローンを飛ばそうとしたとして警視庁に保護された。
 それから一週間ほど後の21日、浅草の三社祭の運営を妨げたとして、この横浜市の無職15歳少年は警視庁に威力業務妨害で逮捕された。150万人もが集まる三社祭の主催者や警備陣に会場警戒を強化させ、ドローンの飛行禁止の貼り紙などを急きょ作らせたりして、運営を妨害した疑い。少年は今月、姫路城や京都の東本願寺なども空撮していたようだ。
<2015年6月7日>
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