鳥のことをあれこれ調べておりましたら、「アヒル」にたどり着いてしまいました。アヒルはいつから日本におるのか? 不明だそうです。
鶩(訓:あひる/音:ボク木)はマガモを改良してきたもの。しかし、日本では家禽に限らず、動植物の改良はまったくの苦手のようです。自然のままを大切にし、あえて種に手をくわえないのでしょうか。
中国では数千年も前から、真鴨の品種改良を重ねて鶩(あひる/ボク)を作り上げて来ました。それなら隣国の日本にも舶来してもいいはずでしたのに、奈良時代以前にはその痕跡がなさそうです。小さい家畜ですから、船での運搬も楽だったはずですのに。その理由も追求したい。
奈良時代後半に集成なった『万葉集』(759年~780年)。登場する「鳥」を、まず紹介します。鳥名の右の数字は登場回数です。残念ですが、アヒルは見当たりません。「アヒル」の呼称は、ずいぶん後世から始まるようです。おそらく16世紀のことです。これも解明したいですね。
次の平安時代は「七九四ウグイス平安朝」ですね。
ほととぎす 153
雁かり 65
鶯うぐいす 51
鶴つる・たづ 47
鴨かも 29
千鳥ちどり 26
鶏かけ・にわとり 14
鷹たか 11
うずら 9
喚子鳥よぶこどり 9
雉きぎす・きじ 9
あぢ・ともえがも 8
にほ・にほどり 7
みさご 6
鵜う 6
ぬえ・ぬえどり 6
かほどり 5
山鳥やまどり 5
おし・おしどり 4
からす 4
ひばり 3
わし 3
小鴨たかべ 2
もず 2
1回だけ登場した鳥は、
あきさ/あとり/いかるが/かまめ(鴎かもめ)/さぎ/しぎ/つばめ/ひめ(鴲しめ)/みやこどり
不思議と登場しない鳥は、
雀すずめ/鳩はと/鵯ひよどり/椋鳥むくどり/鶸ひわ/鳶とび/鶺鴒せきれい……。あまりに身近過ぎて注目されないのでしょうか。
『日本書紀』では、神武天皇を先導した金色のトビが有名です。セキレイも同様です。イザナギ・イザナミもセキレイに習ったといいます。
このふたつの鳥には、古代から先行する強すぎる神話伝説があるために、あえて避けたのでしょうか。
また「鳧」ケリが気になります。『万葉集』には1ヶ所だけ、鳧と思われる「気利」が出ます。これも注目の要点です。
アヒル話の連載をいま開始しましたが、横道のケリやカモなども触れながら、ゆっくり進めていきたいと思っています。
2千年ほども昔の中国漢代の辞典に「舒鳧鶩也」という言葉がありました。「家鴨は尻を振り振り、ゆっくり歩くが、これはアヒルである」。舒は「のろい」「ゆっくり」などの意。ここでの「鳧」は「ケリ」ではなく「鴨カモ」です。また鴨には野生の野鴨と、家で飼う家鴨、すなわちアヒルがありました。
「寸翁と抱一」はしばらく、夏休みです。
参考:『万葉の鳥』山田修七郎/近代文藝社1985
『万葉の鳥、万葉の歌人』矢部治/東京経済1993
<2024年8月27日>