ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

アメリカのエボラ熱

2014-10-24 | Weblog
 WHO世界保健機構は10月20日、エボラ出血熱の感染が、西アフリカのセネガルについでナイジェリアでも終息したと宣言しました。しかしリベリア、ギニア、シエラレオネの隣接3カ国ではまだ感染は拡大しています。
 ナイジェリアでは最長潜伏期間の2倍にあたる42日間が過ぎても新規感染者が出なかったため、感染が終息したと判断された。それにしても十分な医療設備がないにも関わらず、同国はどのように拡大を阻止したのでしょう。
 ナイジェリアは、国内の患者全員について感染経路をたどることに成功した。最初の感染源が、リベリアから入国してウイルスを持ち込んだ男性であることを突き止めた。病院側は男性と押し問答になったが外出を許可せず、これが感染拡大を防ぐうえで大いに役立ったという。その後、ナイジェリアでは接触があった約900人をすべてモニターし、経過観察を行って感染が拡大していないことを確認した。

 アメリカでは3人の感染が確認されていますが、国民はパニックを起こしても不思議ではないような状態だそうです。田中宇さんのメルマガ(フリー版)によると、
「的確な対応をすれば米国でエボラが拡大することはないが、的確な対応を阻害する要因が多い。米国のエボラ対策は、CDCがお粗末なだけでなく、マスコミ報道や当局の広報体制もお粗末で、まるで社会的な過剰反応やパニックを煽りたいかのようだ。エボラ感染者が出て以来、米国では、公共の場で誰かが嘔吐すると、エボラとの連想でパニックが発生する。3人が感染したダラスでは10月19日、電車の駅のホームで女性が嘔吐し、防護服をつけた消防隊がかけつけた。当初、嘔吐した女性は死亡したダンカンと同じアパートに住んでいてCDCの監視を受けている人物と報じられ、大騒ぎになったが、あとでそれは誤報と判明し、女性はエボラと関係ないことがわかった。こんな誤報がなんで発生するのか不可解だ。」
 以下、田中宇「米国のエボラ騒動」(10月20日)をダイジェストで紹介します。


 10月8日、リベリア人(西アフリカ)のトーマス・エリック・ダンカンが、エボラ出血熱により、米国テキサス州ダラス市の病院で死亡した。ダンカンは、米国内でエボラ出血熱と診断された初めての患者だった。これまでに、西アフリカ諸国でエボラ対策のために働いていた医師ら5人の医療関係者が、現地でエボラに感染し、米国に帰国して治療を受けている。彼らは、現地でエボラと診断され、米国で受け入れ態勢が作られてから帰国している。対照的にダンカンは、特に受け入れ態勢を整えたわけでない、ふつうの大きめの病院に患者としてやってきた。

 ダンカンはリベリアの首都モンロビアに住んでいたが、9月19日、米国在住の姉か妹を頼って渡米した。渡米の5日前、ダンカンは、住んでいたアパートの大家一家の一人が急な腹痛を訴えたため、病院に連れていったが病床に空きがないと断られ、患者を再び自宅に運び入れるのを手伝った。大家はエボラに罹患しており、間もなく死亡した。ダンカンはこの時、エボラに感染したと考えられる。

 ダンカンは、その5日後に渡米する際、モンロビアの空港の出国審査で、最近エボラ感染者と接触していないか尋ねられ、ダンカンは「ない」とうそをついて出国した。米国に入国する際の審査では、ダンカンがエボラ感染地のリベリアから来たことが問題にされず、ダンカンは簡単に米国に入国し、ダラスの姉の家での滞在を開始した。リベリア政府は後で、うそをついて出国したダンカンを非難したが、うそをつかなければ米国に行けなかったのだから、ダンカンがうそをつくのは当然だった。うそを見破れなかったリベリアや米国の政府の方が問題だ。

 ダンカンは、米国に着いた4日後から腹痛や発熱などエボラの症状が出始め。翌9月25日の夜に、ダラスの大きなプレスビテリアン病院(約900床。Texas Health Presbyterian Hospital)に急患で駆け込んだ。数日前に西アフリカから渡航してきた人物が腹痛や発熱を訴えたら、医師はエボラを疑って当然だが、ダンカンは米国に来たばかりで米国の健康保険に入っていなかった。高額な検査を行ってエボラでなかった場合、ダンカンの支払い能力が低いと、検査費を取りはぐれ、病院自身の負担となる懸念があった。そのためか、病院側はダンカンをエボラでなく通常の腹痛と診断し、鎮痛剤と抗生物質を渡し、翌朝に帰宅させた。病院側はのちに、ダンカンがリベリアから来たばかりだとわかっていながら十分な対応をしなかったことについて謝罪文を出している。

 3日後の9月28日、ダンカンは嘔吐し始め、本人や家族がエボラの発症を確信し、救急車を呼んで同じプレスビテリアン病院に搬送された。こんどは病院側もエボラと診断してダンカンを隔離したが、すぐには治療が開始されなかった。6日後の10月4日、試験段階にあるエボラの治療薬が投与されたが、遅すぎたようで、ダンカンは10月8日に死亡した。

 その後、病院は看護師らの2次感染がないか検査した。すると10月12日、ダンカンの世話をした看護師のうち2人がエボラに2次感染していることが明らかになった。現時点で2人は、エボラの治療経験がある他地域の病院に運ばれ、治療を受けている。米政府のエボラ対策の担当部署であるCDC(疾病対策予防センター)は、医師や看護師がエボラ罹患者に対応する際に身につけるべき防護服などについて指針を設けている。2次感染が明らかになった日、CDC長官は「CDCの指針を守って患者に接していたら、看護師が2次感染することはなかった。看護師は、CDCの指針を守らずに患者に接していたのでないか」と表明した。

 これに対し、プレスビテリアン病院の状況を調べた看護師組合が、問題はCDCの指針自体の方にあったと反論した。CDCの指針は、エボラ患者の容態の度合いをいくつかに分け、軽度の患者には手袋とガウン式の軽度の防護服を、重度の患者には顔面や頭部、靴への覆いを含む重度の全身防護服を着るよう、医師や看護師に求めていた。しかしエボラ患者の中には、容態が急に悪化し、突然、噴出型の嘔吐や、患者自身で止められない激しい下痢の症状を示す者が多い。患者の容態が良いので看護師がCDC指針にしたがって軽装で世話をしていると、突然の嘔吐などが起こり、防護服を着替える間もなくそのまま対処せざるを得ず、患者の体液が看護師に接触し、感染してしまう。患者の苦しみを思いやる献身的な看護師ほど、2次感染しやすくなる。プレスビテリアン病院のケースはこれだった。

 ダンカンが2度目に入院してから2日間、看護師はCDCの指針や上司の指示にしたがい、軽装でダンカンに接し、おそらくこの間に2人が2次感染した。CDCから病院への指示が二転三転し、現場の看護師や医師は、CDCの変更に合わせるのが大変だった。CDCは、かつてHIVの被害が広がったときにも方針が二転三転した前科がある。この体質は改善せず、今回の2次感染につながった。しかもCDCは、自分たちの指針が悪いのに、指針を遵守していた献身的な現場の看護師に責任をなすりつけるという極悪非道なことをやってしまった(どこの国にもありがちな、役人らしい対応といえる)。

 大統領府で開かれたエボラ対策会議で、CDCは在米エボラ患者の一人一人の容態を尋ねられた。すでに死亡ないし治癒した者を入れても、在米患者が数人しかいないにもかかわらず、CDCは個別の容態を把握しておらず、返答できないのでオバマを苛立たせた。CDC自身が患者の容態を把握していないのに、患者の容態の変化に合わせて複数種類の防護服の中から適切なものを選ぶことを病院に求めるのは無理だった。

 CDCは、2次感染を看護師自身のせいにした5日後、看護師でなく自分たちの指針の方に不備があったことを認め、指針を変更することを発表した。それまでの、患者の容態に合わせて看護師らが防護服を変えるシステムでなく、最初から最も重い患者に対処できる全身防護服を着て患者の世話をすることを病院に義務づけた。従来のCDCの指針は病院に指針遵守を義務づけるものでなかったが、今回順守の規定も強化した。従来は義務づけでなかったため、全米の多くの病院が、医師や看護師らにエボラ対策に関する行動的な訓練を行わず、エボラ対策についての文書を配布して読んでおくように指示するだけだった。

 防護服に関して重要なのは、患者に接している時よりも、防護服を脱ぐときや、脱いだ後のことだ。脱ぎながら、防護服の裏側が表になるように上手にまとめる技能が必要で、慣れていないと脱ぐときに患者に接していた防護服の表側が肌に触れて感染しかねない。容態が悪いエボラ患者は噴出的な嘔吐、下痢、出血によって病室が汚染される。看護師らが靴に防護カバーをしないで病室に入り、そのまま病院内を歩くと、2次感染の可能性が拡大する。プレスビテリアン病院では、エボラ患者の体液のサンプルを採って検査する際、サンプルを病室から検査室まで、院内の通常の圧縮空気式の輸送システムで送っていた。これも、輸送の途中でサンプルを入れた容器が破損すると、院内への2次感染につながる。患者が排出した体液を吸い取った後の廃棄物の処理のシステムも不完全だったことが、看護師組合の調査でわかっている。

 西アフリカで活動する「国境なき医師団」は、何年も前からエボラの治療にあたっているが、医師や看護師が2次感染したのは今年が初めてだ。対照的に米国では、最近初めて一人目の患者に対処したところ、それだけで2人も2次感染が起きた。米政府は数カ月前からエボラの上陸に備えていたはずだが、お粗末な結果になっている。西アフリカの国境なき医師団は、患者を診た後の除染作業を確実に行うため、2人一組で除染するシステムをとっているが、CDCはそのやり方を指針に盛り込んでいないなど、両者のやり方に違いがある。

 米国の当局や病院でエボラへの準備ができていなかった一方で、米国政府の入国審査は甘いままで、ダンカンはリベリアからの入国をすんなり認められた。対照的にメキシコなど中米諸国は、西アフリカからの入国を大幅に制限するなど、非常に厳しい対応をしている。これは差別的だと米国から批判されているが、中米諸国が厳しい対応をしているおかげで、西アフリカから中米経由で米国にエボラ患者が入ってこなくてすんでいる。米国とメキシコの間の国境は密入国が簡単で、もし中米にエボラが感染したら、米国に感染する可能性が高い。

 的確な対応をすれば米国でエボラが拡大することはないが、的確な対応を阻害する要因が多い。米国のエボラ対策は、CDCがお粗末なだけでなく、マスコミ報道や当局の広報体制もお粗末で、まるで社会的な過剰反応やパニックを煽りたいかのようだ。エボラ感染者が出て以来、米国では、公共の場で誰かが嘔吐すると、エボラとの連想でパニックが発生する。3人が感染したダラスでは10月19日、電車の駅のホームで女性が嘔吐し、防護服をつけた消防隊がかけつけた。当初、嘔吐した女性は死亡したダンカンと同じアパートに住んでいてCDCの監視を受けている人物と報じられ、大騒ぎになったが、あとでそれは誤報と判明し、女性はエボラと関係ないことがわかった。こんな誤報がなんで発生するのか不可解だ。

 草の根運動に人気があるロン・ポール元下院議員は「エボラの在米感染者が1人から2人に増えた時、米マスコミは『エボラ感染が100%も増加した』と騒いだが、これこそ誇張報道だ。エボラは危険だが、それをパニックに発展させて不要な政策をやろうとする動きの方がもっと危険だ」と警告している。パニックが煽られるので、すでに米国民の半分が、エボラを恐れて国際線の飛行機に乗らないようにしている。

 ワシントンDCの国防総省(ペンタゴン)では10月17日、最近リベリアから帰国した同省要員の一人が、同省の周辺を行き来するバスに乗っている時に気分が悪くなり、下車して同省の駐車場で嘔吐したので大騒ぎになった。後で、この要員はエボラに感染していないとわかったが、国防総省の全体にエボラの恐怖を植えつける効果はあった。

 国防総省は、自分たちの権限が拡大する問題が起きる際、自分たち自身が攻撃されて危機感が醸成されることを好む傾向がある。01年の911事件の時もペンタゴンに旅客機が突っ込んだことになっているが、その穴はどう見ても旅客機よりはるかに小さく、機体の破片も散乱しておらず、周辺の電柱も翼でなぎ倒されたのでなく重機で引っこ抜かれた感じで、自作自演的な設置型爆弾の可能性が強い。国防総省は、エボラと「戦う」ために、3千人の米軍兵士を西アフリカに派兵することを決めている。医療体制の充実が必要なときに、お門違いな「戦争」を広げたがる国防総省のやり方は、911後、国内でテロを捜査する警察や公安の政策(もしくは政府内部の自作自演性に対する捜査)をすべき時に、お門違いな中東への戦争を広げてイラクに侵攻して以来、変わっていない。

 911以来のテロ戦争での有事体制の恒久化、08年のリーマン危機後に貧富格差の拡大が容認されていること、05年のハリケーン「カトリーナ」でFEMA(連邦緊急事態管理局)など米当局がニューオリーンズの被害をむしろ拡大する対策を採ったこと、メキシコからの違法移民の流入が看過(むしろ扇動)されていること、そして今回のエボラに対するCDCなどのお粗末な対応と、米当局の近年の危機対策の中には、危機をむしろひどくするかのような、未必の故意的な過度の失策が目立つ。

 米政府自身が、米国を混乱させ、国力を浪費している。それが何のためなのか、私が疑っているような「多極化推進」との関連があるのかどうか不明だ。しかし、こうしている間にも、米国の国力や覇権の力は、静かに内側から減衰させられている。
<2014年10月24日>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

10億分の1秒の超高速取引

2014-10-15 | Weblog
マイケル・ルイスの話題の新著が今春に刊行されました。ウォールストリートを揺るがせた『フラッシュ・ボーイズ』。10億分の1秒の超高速取引(HFT=High Frequency Trading)で、並みの投資家よりわずかに先に取引を執行。合法的に勝率100%の金融取引を行う理系集団の実態を暴いた驚愕の書です。
 米国での3月30日の発売前後、ウォールストリートは蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。通常のコンピュータ処理能力、凡庸な通信回線で取引を行っている機関投資家、個人投資家は絶対に勝てないゲームをやっているのではないか?
 そして10月10日には待望の日本語訳が文藝春秋より発売になりました。『フラッシュ・ボーイズー10億分の1秒の男たちー』渡会圭子・東江一紀訳、阿部重夫解説、本体1650円。日本でも大きな論争を呼ぶことは間違いない。FACTA発行人の阿部重夫氏が同書に寄せた解説文のダイジェストを紹介します。


 天はときどき二物を与えるらしい。
 プリンストン大学で学士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を得て、ウォール街を経験したノンフィクション作家、マイケル・ルイスがまた新しい鉱脈をみつけた。今度はアメフトでも野球でもなく、かつての本業である金融取引だが、リーマンショックを描いた前々作の『世紀の空売り』から一歩進んで、その裏で人知れず進んでいた最先端の「超高速取引」(HFT)である。(注:メジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMを描いた『マネー・ボール』もルイスの話題作。映画化されています。)
 勝率100%! ギャンブラーとて、それが徒夢(あだゆめ)に過ぎないことは知っている。だが、超高速取引なら、100%という勝率が〝手品〞のように可能になるのだ。
 まさか! だが、本書にも登場する米国の超高速取引業者ヴァーチュ・フィナンシャルが「創業5年半で負けは1日だけ。それも発注ミスが原因」と自慢して袋叩きにあい、2014年4月予定の上場を中止したほどだ。

<なぜ「不敗」を続けられるのか>
 もちろん、「不敗」の手品にはからくりがある。要は、フロントランニング(先回り)の一種――顧客から注文を受けた証券会社などの仲介業者が、その売買が成立する前に注文情報をもとに有利な条件で自己売買して儲けるのに類した手口だからだ。
 その仕組みはまさしく、東京大学工学部の石川正俊教授の研究室が開発した「勝率100%じゃんけんロボット」と同じだ。国際ロボット展2013に出展され、YouTubeにもアップして、1年余で386万回のビューを稼いだから、画像をご覧になった人もいるだろう。
 人間の手のひらと、3本指の機械の手が対峙する。ジャンケンポン! 人間がグーを出しても、パーを出しても、チョキを出しても、ロボットは絶対に負けない。
 その種明かしは――ポンのタイミングで人間の出した手の形を認識し、 1ミリ秒後にそれに勝つ手をロボットハンドが出す「後出しジャンケン」なのだ。悲しいかな、人間のニューロンを電気信号が伝わるスピードは、光ファイバーを伝わる機械の信号のスピードに及ばないから、後出しに気づかない。たったそれだけの錯覚から、無知な顧客を幻惑して「勝率100%」の非常識を編みだすところが、ウォール街の破天荒なところだろう。
 さらに東大では、人間が手を出す前の筋肉の動きだけで、いち早くどの手を出すかを察知し、同時もしくは先にロボットが手を出すバージョン2も完成した。
 まさしくここに「フラッシュ・ボーイズ」のミソがある。単純な後出し、つまりバージョン1のフロントランなら、日本でも金融商品取引法で禁止されている。だが、バージョン2だと、予め仕込んだ計算式(アルゴリズム)によって、仲介業者などのもたつきが予測でき、ミリ秒、マイクロ秒の空隙を突いて先回りが可能になる。
 例えば本書にもあるように、ショットガンのように小口注文を大量に散らして、それを撒き餌に大口の魚影が浮かぶと、ピラニアのように先回りで買い占めるといった手口だ。このアルゴリズムに創意ありとみなせば、バージョン2を規制する法はない。
 「超高速取引をする連中にとって、リスクなしで利益を上げるのに必要なのは正確な情報ではない。必要なのは、自分たちに有利になるよう、体系的にオッズを歪ませることだけだ」(本書98ページ)
 オッズを歪ませて「壊れたスロット・マシン」(本書286ページ)のようにジャラジャラ出っ放しになっていても、現行法では違法と言えない。正直、困った!というのが、米証券取引委員会(SEC)や日本の金融庁などの偽らざる本音だろう。

<証取が提供するコロケーション>
 「フラッシュ・ボーイズ」は日本にも上陸している。東京証券取引所は2010年1月、立会場を廃止して超高速の現物株式売買システム「アローヘッド」を導入した。同時に「売買システムや相場報道システムを設置してあるデータセンターを擁するプライマリーサイトにおいて、コロケーションサービスを提供する」と謳っている。東証と合併した大阪証券取引所も、2013年11月から先物売買でコロケーションサービスを始めた。
 コロケーション。証取が取引所のデータセンターのすぐ傍に、超高速業者などのサーバーを有償で設置させるサービスのことである。日本のある大手証券会社によれば、「すでに約定(成約)の4割、発注の6割がコロケーション経由で占められている。そのすべてが超高速取引業者ではないにしても、実感ではマイクロ秒を争う業者のシェアは約定ベースでおよそ3割、欧米の水準に近づいている」という。
 明らかに取引所と超高速取引業者はグルなのだ。東証と大証が合併した日本取引所グループ(JPX)の2014年3月期決算でコロケーション利用料として営業収益に計上されたのは25億6600万円だが、前年度比38%増と急成長している。ところが、その利用状況も契約者数も内訳も、データセンターの所在地についても「一切明かせません」(JPX広報・IR)とひた隠しなのだ。
 国家機密、と言わんばかりの箝口令だが、どうも〝黒目〞(日本人)のフラッシュ・ボーイズはまだいないらしい。1980年代からNASA(米航空宇宙局)で職を失ったロケット・サイエンティストたちが金融市場に流れこんで、アルゴリズム取引の基礎ができあがったアメリカとは、残念ながら理系の天才秀才の層の厚さが違うのだ。
 「日本のフラッシュ・ボーイズ」とは、太平洋を渡って上陸したヴァーチュ、KCG、サントレーディング、クオンツラボなど、本書にも顔を出す外来種の〝猛者〞たち十数社のことなのだ。ただ、上陸したとはいっても、日本にオフィスもおかずに、JPXとコロケーション契約を結び、彼ら独自のアルゴリズムを仕込んだサーバーが、データセンター近くの一角に置いてあるだけだ。
 オペレーターはアメリカやシンガポールなどにいて、遠隔操縦でサーバーのプログラムをときおり微調整している程度。売買注文はすべてこの〝青目〞の「無人ロボット」がプログラムに従って自動的に出している。海底に身を潜めるアンコウのように市場の動きに目を光らせ、大きな獲物がみつかるやいなや、東証や大証会員の日系証券会社を通じて大量の注文を浴びせかけては、広く薄く荒稼ぎしている。なのに、取引所が「国益」を主張するなど笑止の極みである。
 コロケーションという「出島」を設けて、超高速取引業者という「黒船」の埠頭にしておきながら、「いやいや、あそこは日本でござる」と言い張る長崎奉行所のようなものだ。実は「利用料」という名目の貸座敷代で潤っているのは奉行所なのに、口をぬぐって知らん顔である。

<超高速取引は株価変動を緩やかにする?>
 本書の衝撃が飛び火すると見てか、JPXは早くも予防線を張っている。2014年5月と7月、立て続けにワーキング・ペーパーを発表した。
要は、超高速取引が流動性を供給し、株価変動を緩やかにする、との結論先にありきなのだ。ブラックボックス化で人間の恣意が介入する余地がなくなり、かつてのように場立ちの囁きや、小耳に挟んだ電話情報から、フロントランやインサイダー取引に手を染める「原始的な」証券犯罪は成り立たなくなった、という効用論ばかり吹聴する。
 だが、それでは2010年5月6日にニューヨーク・ダウ工業株30種平均が、10分で600ポイントも急落した「フラッシュ・クラッシュ」を説明できない。
 実は取引所の売買記録は秒単位しかなく、マイクロ秒単位で起きたデータがないからだ。微視的にはオベリスクのように売買の一点集中が起きても、巨視的には凪の水面としか見えず、量子力学をニュートン力学で解くにひとしい。アローヘッド導入の前後を比較したJPXのペーパーも同じ轍を踏んでいる。本書の指摘にはグーの音も出まい。
 「フラッシュ・ボーイズ? いやいや、アメリカだけが特殊なんです、先物のシカゴと現物のニューヨークその他の取引所が別々だから、ミリ秒以下のタイムラグが生じて、〝濡れ手で粟〞の超高速取引が可能になるんです」と日本の市場関係者は言い訳する。
 日本では、取引の九割が東証に集中しているから、本書に書かれたような多数の取引所間の価格差やレイテンシーに乗じた先回りはしにくいという理屈だ。
 しかしそれは手口の一つに過ぎないことは本書でつまびらかにされているとおりである。ルイスのウォール街摘発を「極論」と貶す人の正体は、たいがい超高速取引業者のお仲間である。……(以下略。本文をご覧ください。参考 http://toyokeizai.net/articles/-/49752)
<2014年10月15日 南浦邦仁>
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノーベル平和賞のサトヤルティ氏

2014-10-13 | Weblog
 英紙ガーディアン(電子版)は「パキスタンのティーンエージャーとインドの人権活動家が、スノーデンや法王などを負かした」と報じた。今年のノーベル平和賞の候補が例年に比べ多く、米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏やローマ法王フランシスコ、一部では有力と伝わっていた日本国憲法9条などの候補を抑えて決まったことを紹介した。インドのヒンドゥスタン・タイムズ(電子版)は「多くの人々はサトヤルティさんの名を初めて聞くだろう」と、インド人にも意外性があったことを示した。
 マララさんはあまりにも有名ですが、もう一人のサトヤルティさんはどのようなひとか? 日経新聞が対談を報じました。先進国のわたしたちが、信じられないような安価ですぐれた輸入製品を購入できるのは、発展途上国での搾取された労働生産に支えられているからではないか? 児童労働を活用するグローバルなブラック企業のおかげではないか?

<ノーベル平和賞のサトヤルティ氏 「児童労働、企業に責任」コスト優先の「強欲」批判2014/10/13付 日本経済新聞 朝刊>
 【ニューデリー=岩城聡】ノーベル平和賞受賞が決まったインドの人権活動家、カイラシュ・サトヤルティ氏(60)が、ニューデリーの事務所で日本経済新聞の取材に応じた。児童労働の撲滅に取り組んできた同氏は「児童労働は親の無関心が原因ではなく『経営者の強欲』が生み出すものだ」と述べ、解決には途上国などで事業を展開するグローバル企業の対応が重要との認識を示した。
 白い民俗衣装に身を包んだサトヤルティ氏は「私はいたって普通の人間。そんな私にこんな賞が与えられた。この賞は全てのインド人、そして全ての子どもたちにささげられたものだ」と、喜びを表現した。
 「静かな海に小さな石を投げてできたさざ波がやがて波状効果を起こす。私のやってきた活動はそんなものだ。目立たないが、何かが起こっているのだろう」と述べた。1990年代から活動を開始し、工事現場やカーペット工場などの苛烈な作業現場から救い出した子どもの人数はすでに8万人に迫る。
 「雇用主は安くて従順な労働者を求める。そして子どもは一番安価で、最も従順な被雇用者だ」と語気を強めた。インドで学校に通わず労働を強いられている子どもの数は政府統計で約435万人。実際はこの10倍以上ともいわれる。児童労働を生む最大の要因は、子どもを雇うことでコスト削減を図ろうとする企業の発想だと断言した。
 インド政府は2012年、14歳以下の子どもの労働を全面的に禁止した。しかし、製造業の発展とともに違法な児童労働は増加する懸念も向けられる。「作物であれコンピュータであれ、子どもや教育の犠牲の上に生み出されているとしたら、それは恥ずべきことだ」と、途上国の子どもが犠牲になっている現状への憂慮を口にした。
 パキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)と共同受賞となることについて「(対立してきた印パの)国家間の友愛を進めることにつながる。我々は平和に向けて共に活動しなければならない」と述べ、今後マララさんと協力していく考えを示した。
 サトヤルティ氏は、12月10日にノルウェーのオスロで開かれる授賞式にインドのモディ首相を招待してほしいとマララさんから要請を受けたという。サトヤルティ氏は11日夜、首相に面会したが「私は政治家でもないし、(招待は)私の能力の範囲外にある」と語り、首相を直接招くことはしなかったと述べた。
<2014年10月13日>
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノーベル平和賞発表

2014-10-07 | Weblog
 秋の恒例、ノーベル各賞の受賞発表がはじまりました。10日には平和賞。今日は水口洋介さんのブログを紹介します。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2014/10/post-5cf9.html


日本国憲法9条を持つ日本国民にノーベル平和賞?
■憲法9条がノーベル平和賞の有力候補だって?
一主婦がはじめた「日本国憲法9条にノーベル平和賞を」という運動により、日本国憲法9条をもつ日本国民がノーベル平和賞にノミネートされ、しかも有力候補との報道があります。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NCUHY36KLVRD01.html
この発案者のアイデアがユニークで面白い。発案者は、憲法9条改正反対の立場からの発案でしょう。私も、この運動に賛同署名しました。10月10日に発表だそうです。
ノーベル平和賞は、ノルウェイー国会が選出した5名の国会議員で構成されたノルウェイ・ノーベル委員会で決定される。ロイターの報道では、現在の委員は、保守派議員が2名、中道左派議員が3名とのことである。現在の委員会は、オバマ大統領やEUに平和賞を授与している。ノルウェイー外交のアピールや委員の政治色が反映される傾向があるらしい。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0HS0HE20141003

■それは無理だと思う理由
ノーベル平和賞が授与されることはない、と私は予測していました。
一つは、現在、憲法9条改正は日本で政治的な論点であり、ノーベル平和賞を授与することは内政干渉になりかねないからです。政府自民党が憲法改正案を決めて憲法9条の改正を宣言し、読売や産経などのメディアも憲法9条改正を訴え、国民の半数近くが憲法9条改正に賛同していますから。ノルウェイは、慎重になるはず。
二つは、日本国民にはノーベル平和賞を授与される資格がないと思うからです。日本国民の多くは日米安保条約を容認し核の抑止力を享受してきたこと、しかも、最近は若者を中心にして中国や韓国に対する民族排外主義の傾向を強めていること、国内では過激な民族差別的ヘイトスピーチ団体が跋扈しつつあること、さらには首相や多くの日本国民が慰安婦問題について日本が外国から非難されるのは不当な中傷であると主張していること。このような国民にノーベル平和賞を与えては、平和賞の名が泣くでしょう。

■故佐藤栄作氏が「平和賞」を授与されたんだからあり得るか
でも、ひょっとしたら授与されるかも、と思い直しました。

憲法9条を守ろうとしている日本人(9条改正派除く)ということになれば、うえの二つ目の障害はなくなります。

また、一つ目の「内政干渉」の危惧についても過去に問題にしなかった例がありました。
あの「佐藤栄作」氏にノーベル平和賞を授与したというトンデモな「実績」がありますから。しかも、その受賞理由は、憲法9条、それに基づく非核三原則を佐藤栄作氏が唱えたからなんだそうです。これも賛否の分かれる人選でした。
自民党総裁であった故佐藤栄作氏は、日米核密約を締結し、日米安保体制を強化してきた首相であり責任者です。このような人物に平和賞が授与されるくらい(苦笑)ですから、憲法9条を守ろうとする日本人に平和賞が授与されても驚くことはないかもしれません。

日本の右傾化を懸念するヨーロッパ人権派が安倍首相ら右派を牽制するためにノーベル平和賞を授与することはあり得るかも。EUは、日本との条約や経済協定に人権条項を入れることを求めるくらい日本の現状に不安を覚えている。しかも、ノルウェーのノーベル委員会の委員長は中道左派の議員で、EU議会欧州評議会の事務総長だそうです。日本の右派への「牽制」として平和賞を授与する外交的・政治的パフォーマンスをするかも。

■授与式には誰が出席するか
万一そうなったら、安倍首相が日本国民を代表して授与式に出るのでしょうか? 

憲法9条改正論者の安倍首相としては、当然辞退されるでしょう(すべきでしょう。)。とすると、衆議院の議長あたりでしょうか。でも、これも自民党男性議員ですから、まさか授与式に出るような「二枚舌的」行動はしないでしょう。

他方、天皇ということもあり得ない。天皇は、「栄典を授与する」ことならできますが、「外国から栄典の授与を受けること」は国事行為に規定がない(日本国憲法7条)。ただ「儀式を行うこと」に含まれるとの解釈はあり得るが、外務省は「天皇」のプライドとして外国から栄典を授かる立場に天皇がなることをけっして認めないでしょう。
となると、この運動の「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会の代表の方か発案者の主婦の方がもっとも適切だと思います。

(追記)
ノルウェイ・ノーベル委員会の委員長は、欧州議会ではなく、欧州評議会の事務総長でした。
欧州議会と、欧州評議会は別組織で、欧州評議会は人権や法の支配を主に担当し、ヨーロッパ人権条約を締結し、ヨーロッパ人権裁判所をつくった機関だそうです。
<2014年10月7日>

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする