残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《入門》第二回
盆に茶碗と団子二串を盛った皿を載せ、主(あるじ)が次に現れたのは、その僅か後である。
「どこへ行きなさる? 見たところ、お武家様は、まだお若(わけ)ぇようだが…」
と、縁台へ盆を置きながら、主は左馬介の顔を覗き込んで訊ねた。
「葛西までだが、それがどうかしたか?」
「左様でごぜぇやすか…。いいえ、なあに。ただ、お訊ねしただけなんでごぜぇやす。葛西へね? …葛西と云やぁ、堀川道場ですが…」
「そうじゃ。今日は溝切宿で一泊し、明日中には入門する積もりでおる」
「左様でごぜぇやすか…」
同じ言葉を二度繰り返し、盆を両手で粗末な着物へと抱きかかえる姿勢のまま、主は突っ立っている。左馬介は、見られたまま団子を頬張るのも気恥かしく思え、茶を一気に飲み干した。少し熱かったが、気に留めなかった。それを見た主は、
「喉が渇いてやぁーしたか。ちょいと、お待ちを…。急須を取ってきて淹れやすんで…」
と云うと、また奥へと引っ込んだ。