残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《旅立ち》第二十一回
堀川道場に住まいする内弟子は、一人を除き全て二十(はたち)を越えた者達だったからだが、清志郎は幾度も幻妙斎の門を潜り、頑強に許しを乞うた。これには幻妙斎も折れざるを得なかった。そして、左馬介の入門を許したのは、清志郎が七度(ななたび)、堀川道場の門を潜った日であった。
「預けられる以上は、御子息には我が子同然の生活を覚悟して貰わねばなりませぬが、それでも宜しいか?」
最後に、そう念を押した幻妙斎に、清志郎として異存のあろう筈はなかった。なんとしても、左馬介の剣の天分の冴えを埋もれさせてはならぬ…と、左馬介の太刀捌きを目の当たりにした時から、清志郎の深い存念は変わったことが無かった。
こうして、左馬介は葛西の地で暮らすことになったのである。清志郎は、この時、既に、隠居身分となっていた。二十五になった市之進が父の御家人株と通称の清志郎を継いで、定町廻り同心として奉行所へ出仕していた。次男の源五郎は遂、先だって良縁に恵まれ、久富屋という海産物問屋の養子口が決まったのである。