代役アンドロイド 水本爽涼
(第298回)
三井が調達した折り畳みテントは長左衛門の隠れ部屋に保存されていた。とはいっても、目立たない収納棚の片隅である。その棚は常に埃(ほこり)を被っていて、長左衛門が手をつける場所ではなかったから、ほぼ100%の確率で安全だと判断され、一時保管場所にされたのだ。
「あらっ! 三井、おじいちゃまは?」
里彩が珍しく夜に離れへ顔を出した。
『今日は、ご友人との会食で外出されておられます』
「そうなの? なんだ、つまらない…」
『なにか、ご用事でも?』
「これ、ママが持ってってって…」
里彩は手に持ったスイーツの箱を三井へ手渡した。
『はい! お渡ししておきます』
「三井は食べる楽しみがないから面白くないでしょ?」
『ははは…けっして、そのようなことは。私には、そうした感情は生じませんので、ご安心を』
「それって、すごく便利よね?」
「えっ? まあ…」
フフッと小さく笑い、里彩は離れを去った。
三日後、保の姿は大磯にあった。いつもは研究室へ地下鉄で通勤する保だったが、この日は朝早く車でマンションを出た。大磯への集合は昼過ぎの2時だったから時間的な余裕はあった。