代役アンドロイド 水本爽涼
(第307回)
『保には悪いけど…』
『私だって先生には顔向け出来ません…』
『まあ、仕方ないか。人には人の、アンドロイドにはアンドロイドの物生があるんだから…』
『物生ですか? 新しい表現ですね? 死物である私達の物生・・』
『ええ…。少し前までは私達、保や長左衛門の前には存在していなかったんだから。なんとかなるわよ!』
沙耶は飛行車のスピードを速めた。
その頃、東京航空交通管制部はパニックに陥っていた。レーダーに突如、映し出された未確認飛行物体によってである。
「至急、連絡しろっ!」
「ど、どこへですか!?」
「決まってるだろうが…、国だよ国! 大臣だ大臣、国交大臣!!」
「は! はいっ!」
想定外のSF的事実に航空交通管制部は乱れていた。
沙耶は保にホットラインだけは残しておいた。保名義で新しく買った携帯の番号をメモして置いて出たのである。保、長左衛門とも二人? の逃避をまったく予想していなかったから、最初は驚きと混乱に心は千路に乱れた。だが、小一時間もすると状況の変化が少しずつ落ち着きを取り戻していった。沙耶と三井が残したデータと書き置かれた封書により、少しずつ得心できたからである。元々、二人にとっては、アンドロイドという存在を世に公表していなかったのだから、無かったことにすれば、すべてが丸く収まるのだ。