代役アンドロイド 水本爽涼
(第308回)
保と長左衛門は、中林や里彩の他、存在を知っている者達へは、作り直すことにした、あるいは事情で郷里へ帰ったなどと凌げる笑い話にすることにした。
夕方、研究室から帰った保が一人、とり残された哀れなピエロのように椅子に座っていると、珍しく玄関チャイムが鳴った。保は慌てて立ち上がると、バタついて玄関へ急いだ。ドアスコープから外を窺(うかが)うと、マンション管理人の藤崎が相変わらずボケェ~とした顔で通路に立っていた。
「はいっ! …」
チェーンを外し、保はドアを開けた。
「いや、どうも…。ちょいと気にばなる話を聞きましたけん、寄せて貰らったとです。まあ、どうでんよか話なんですが…、ツレのお人ば、どがんかされたかね? 昨日の夜遅うに見た言う住民がいましたけん」
「ああ、友人の従兄妹(いとこ)の話ですか。急に事情が出来て里へ帰りました。ははは…俺はまた一人暮らしです」
「そうでしたか。いやなに、私はどうでんよかなんですが…」
どうでもいい話にしてはよく訊(き)くな…とは思えたが、保は黙って笑うに留めた。その笑顔に藤崎もニタリと笑い返すと、お辞儀を一つしてUターンした。そのとき、保がつけたままのテレビが臨時ニュースを報じ始めた。沙耶達が乗った飛行車の一件だった。
━ 本日未明、航空交通管制部が確認した未確認飛行物体のその後の足取りは、いまだ判明しておりません。なお、その航跡付近の住民からは、多数の目撃情報が寄せられており、関係機関では、もっか情報の分析を進めております。なお… ━
保は居間へ急いで戻った。