やはり、街並み風景が違っていた。というか、すべてが一変していた。坪倉は、とりあえず家の外へ出て、表戸を閉めた。そして、一歩前へ歩を進めようとした。しかし、足は動かず、停止したまま、その場に凍りついた。高台の住宅地に建つ坪倉家の前は、一昨日(おととい)まで歩道を鋏んで同じような家並みが続いていたのだ。それが、今日も完全に消え失せ、家の前には駅が出現していた。坪倉がもう一度、目を擦(こす)りながら見返すと、家の正面前は駅の入り口になっていた。通り過ぎる大衆は、さも当然のように、なんの違和感もなく駅の構内へ吸い込まれていく。三軒左隣に住む部下の底村水男がそのとき偶然、坪倉家の前を通りがかり、坪倉に気づいた。
「坪倉課長! おはようございます」
「…底村君か、おはよう」
…この場面は、昨日(きのう)とまったく同じだと坪倉は思った。それに自分が話していることも、一字一句違わず同じなのが不思議でならない。もちろん底村の言葉もだし、美郷の出がけの言葉もだった。
「どうかされたんですか? そんなところにジッとされて…。早く行かないと、遅刻ですよ」
refrain
代役アンドロイド 水本爽涼
(第297回)
冷麦の出入口は間口が狭く、人一人が通れるのが、やっとだった。その建て前も外観は少し小奇麗になったが、昔とまったく変わっていなかった。それが友人の中林や保を、ちょくちょく通わせる味になっていた。
「お~い! 帰ったよ」
沙耶がパソコンでテントを検索していたとき、保がマンションのドアを開けた。
パソコンをすぐシャットダウンすると、沙耶は玄関へ出た。アンドロイド機能で瞬間移動できる迅速さが発揮され、ほろ酔い状態の保にはまったく違和感を与えなかった。シャットダウンするためのエンターキーを押し、わずか2秒後に現れたのだから、それも当然といえた。
『あらっ! 今日は飲んできたの?』
「ああ、まあな…」
保は酔いの加減で少し眠気もあり、靴を脱いで上がるとすぐ、バタン! と応接セットの長椅子へ横たわった。
『いつ飛ぶの?』
沙耶は両瞼(りょうまぶた)を閉ざした保にストレートに訊(き)いた。
『んっ? ああ…組立は三日後で、次の日に飛ばそうと教授が言ってた…』
保は眠そうに目を擦(こす)りながら言った。
『そう…。大磯の別荘だったわね?』
「ああ、そうだ…」
その直後、保の寝息が聞こえた。