「ああ、別に…」
「駅の中の出店ですか?」
「えっ?! ああ、まあ…」
これ以上、訊(き)いては拙(まず)い…と坪倉は思い、適当に暈(ぼか)した。
「そういや、最近、出店が変わりましたよね。あそこの日替わり弁当、美味(うま)いんで好きです」
「そうだな、ははは…」
坪倉は笑いで誤魔化(ごまか)した。
「さあ、急ぎましょう! 今日は早朝会議があります、課長」
「ああ…」
目の前に映る景色は、どう考えても夢としか思えない。坪倉はそれでも部下の底村の手前、凍りついた両足を緩慢(かんまん)に動かし始めた。
駅自体が変わったということではない。昨日まで数百m先には、この光景があったのだ。ただ、今朝はそれが家の前に移動していた・・ただ、それだけのことなのだ。いや、坪倉には駅構内に入っても、自分の視覚が信じられなかった。改札を抜けホームへ入ると、不思議なことにいつもの街並みが見えた。おかしい? と坪倉は思った。家の前に駅があるのだから、科学的な常識で考えれば、駅ホームからは坪倉家の景観が望めるはずなのだ。しかしそれが、まったく見えなかったのである。
代役アンドロイド 水本爽涼
(第287回)
『そう。それを聞いて私も安心したわ』
二人? は笑うことなく握手した。
『こういう場合、笑うのが人間よね?』
『では、笑いましょう』
二人? は論理的な表情修正を加え、笑った。
『これで技術面は、ほぼOKだから、いよいよ次の第二段階ね』
『ちょっと待ってください。上腕部、脚部、胸部はいいのですが、ここは?』
三井は徐(おもむろ)に手指で自分の頭は指さした。
『頭部か…。頭部ね…。ここに保が組んだ設計図のコピーがあるけど、私の頭脳はSP-V6Hのマイクロチップだけだし、視聴機能は胸部にあるから問題ないわ。三井さんは?』
『はあ…。私も似たようなものです。チップは沙耶さんより旧式のTPP-A2Sが使用されてますから。違いはその点だけですね』
『じゃあ、頭部に関しては、SP-V6Hと…TPP-A2Sの詳細を分析研究しておけばいい訳よね』
『はい、なんとかなりそうです』
『で、お金はどこに?』
『はい、先生名義で金融機関へ預けておきました。納税関係も内々に対処してあります』
『じゃあ、資金面は問題ないわね。あなた任せで申し訳ないけど、そのお金で機器調達とかお願いするわ。住む所は…これが問題ね』
『はい。公的な手続きが必要ですから、とにかく、家代わりのキャンピングカーを購入するということでどうでしょう?』