水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -36-

2015年09月01日 00時00分00秒 | #小説

 よくよく考えれば、多くのクローンがいる中で、なぜ自分だけが大役を指令されたのか? が、城水には分からなかった。それに城水の体内で数十年も眠り続ける必要があったのか? という疑問も沸々(ふつふつ)と沸(わ)き起こるのだった。そこに山麓へ舞い降りたUFO編隊の大きな理由があることを、クローン化したとはいえ、まだ城水は上官から知らされていなかった。この理由を知る者は、異星人達の中で指令と副司令に限られていた。
 翌朝、いつものように雄静(ゆうせい)はひと足早く家を出た。一本しかない通学バスが定刻に出るからだ。乗り遅れれば遅刻するのは目に見えていたから、さすがに雄静は目覚ましが鳴れば起きた。そのあと、いつもなら時差で城水が起きるのだが、この朝は雄静より早かった。城水の内心は完全に別人だったからである。別人が気も漫(そぞ)ろで早起きするのは当然だった。
「パパ、なにかあるの? 今朝は早いね?」
 歯を磨(みが)き終えて着がえも済まし、キッチン椅子へ悠然(ゆうぜん)と座る城水を見て、雄静は訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。
[ああ、まあな…]
 城水はひと言、暈(ぼか)し、テーブルに置かれた新聞を手にした。1時間ばかり前に起きた里子は、台所に立って朝食準備に余念がなかった。
「また、奥様会!」
 突然、里子が振り返って城水を見た。城水には何のことだか分からない。城水が黙っていたから、里子の追撃が始まった。


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