[いや、別に何もないさ。少し疲れて採点とかが遅れただけだよ]
「ふ~ん…無理しないでね」
幸いにも里子がそれ以上は訊(き)かず、城水は救われた。正直言って、家外だけでなく一挙手一投足に家内でも気を遣(つか)うのは、言ったとおり本当に疲れる城水なのだ。浴室で湯に浸(つ)かっている間とベッドで眠る時間が唯一、城水が解放され寛(くつろ)げる時間だった。なぜクローンのうち、自分だけがこの任務を帯びたのか・・が、未だに分からない城水だった。異星人達による地球調査と物質回収の事実は、彼等の高度な文明科学により人間社会から完璧(かんぺき)に隠蔽(いんぺい)されて進行した。だが、その事実が進行するさ中、異星人飛来の事実がひょんなことから明るみに出た。それはクローンの一人、[4]のうっかりしたミスによってだった。世界は驚愕(きょうがく)し、たちまちパニックに陥(おちい)った。
それは、城水がいつものように放課後、地球物質の回収を終え、帰途に着いたある日のことだった。一学期の終業式で、城水は、異星人とバレずようやく生徒達から解放された安堵(あんど)感に包まれながら車を運転していた。城水が、なにげなくカーラジオのスイッチを押したときだった。
『ただいま、国会議事堂内の衆議院本会議場に得体の知れない侵入者が突然、現れ、突然消え去りました。この科学を否定した出来事は世界各地に広がっております』
やや興奮気味のアナウンサーの声が城水の耳に入る。城水はギクリ! とした。ラジオだけならいいが、国会内の報道カメラマンがその瞬間を撮っていれば、ド偉いことになるからだ。