すると不思議なことに、そのゴツゴツした物質は異様な緑色の光を発し、輝き始めたのである。瞬間、城水は静かに両瞼(りょうまぶた)を閉ざした。その光は城水に付加された情報をテレパシーで送り込んだ。城水が目を開けたとき、城水の知識の中に大聖小学校内のあらゆる情報が蓄積されていた。それは、ほんの数十秒の出来事だった。
「おはようございます!」
若い美人教師の白鳥 鶫(つぐみ)が職員室へ入ってきた。城水は同じ鳥仲間気分で、親近感を彼女に抱いていた。決して下心があった訳ではない。城水の名も鳥雄だからだ。ただ、今の城水は覚醒して以降、過去の城水ではなかったから、ただの女教師としか白鳥が見えていなかった。1年を受け持つ白鳥は、息子の雄静の担任でもあった。当然、それはデータとして城水の知識の中にあった。
[おはようございます…]
城水は単純に返した。そしてすぐ、しまった! と思った。またテンションが下がっていたのだ。顔は真顔で、笑えなかったことも失態だった。
「あら? …先生、今日は元気ありませんね?」
白鳥は訝(いぶか)しげに城水を見た。
[いや、なに…。出がけに家内と喧嘩(けんか)しましてね、ははは…]
城水はテンションを少しづつ上げながら作り笑いをした。
「なんだ、そうなんですか…」
白鳥はニヤリと笑いながら流した。助かった…と、城水は内心で安堵(あんど)した。