しばらくすると他の職員も職員室へ入り、恒例となっている早朝の職員会議、いや会議といっても報告や申し合わせ程度の短い時間があり、教員各自の授業準備となった。やがて、いつものように始業を告げるチャイムがなると、授業のある教員はそれぞれ職員室をあとにした。白鳥も城水も当然、職員室を出た。情報はすべて頭の中に入力されていたから、それほど慌(あわ)てることはなかった。ただ、テンションだけは注意しないと…と思いながら城水は教室へ向かった。城水の背広の左ポケットには例のゴツゴツした物質が入っていた。もちろん、この状況では光を発していないから、ただの石ころだったが…。
「それじゃ…」
廊下の途中で城水は白鳥と左右に分かれた。低学年は教室が別棟(べつむね)だったのである。白鳥と別れた途端、ボケットに入った物質は緑色の光を発し、歩く城水へテレパシーを送った。
━ 余り、多くを語らないように… ━
城水は無言で頷(うなず)き、[了解!]とだけテレパシーで返した。
「起立!」
城水が教室へ入ると、いつもの展開が待っていた。ただ、今の城水にとっては初授業である。緊張感はなかったが、少なからず意識はしていた。突発事に備える意識である。知識データにない突発事態に、今の城水は弱かった。
「着席!」
クラス委員の到真(とうま)はイケメンを意識した言い方で格好よく言った。これが、クラスの女子には不評だった。