水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -62-

2015年09月27日 00時00分00秒 | #小説

「遅かったわね…」
 キッチンで食器を出していた里子が城水な気づいたとき、城水の姿は、すでに消え去っていた。
「…返事もしないで、怪(おか)しい人」
 里子は訝(いぶか)しげに愚痴った。
 城水のそそくさとした動きはまだ続いていた。居間へ入った城水は、素早く背広を脱ぐとネクタイを外し、セーターと家用のズボンに着替えた。城水の脳は、行動速度を下げよと脳内数値で指示した。城水は速(はや)過ぎたか…と、自分の行動パターンを反省した。人間の目には見えない袋は城水だけには見えていた。中には収縮した動・植物の姿がはっきりと見ることが出来た。城水は、その袋と手の平サイズのゴツゴツとした地球外物質を着替えたズボンへ押し込んだ。
 城水はキッチンへ入る前、自室の書斎へと向かった。今日、採取した生物や死物は書斎でUFOへ瞬間移動せよと脳が指示していた。もちろん、脳内の解析数値が飛び交ったあとの指示された判断だった。クローンへ覚醒してからの城水の行動は、すべてが異星人としてマインド・コントロールされた行動なのである。城水は瞬間移動で袋をUFOへと送り終えた。
[ご苦労だった。次の袋を渡しておく。明日も頼む…]
 地球外物質は城水のズボンの中で緑色の光を発し、テレパシーでそう告げた。机の上には城水しか見えない無色透明の袋が置かれていた。城水は無言でその袋を何もなかったようにポケットへ入れた。
「今日は、何かあったの?」
 ようやくキッチンへ現れた城水に、里子がすぐ声をかけた。 


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