ここは、城水家の家前にある坂の下である。城水の家前の坂道は歩道も含め幅員(ふくいん)が約10mほどあった。この坂が縦方向に下降し、下り切った所でT字路になるという寸法だ。このT字路は、やや狭(せば)めで、歩道はなく、幅員は7m内外である。このアスファルト路面のマンホールが突然、無音で跳ね上がった。中から次から次へと現れたのは城水のクローン達だった。この光景を見れば、恐らく誰もが卒倒しただろう。それは当然で、すべての者が城水だったからだ。城水の家を密かに隠れて観察したクローン[1]の姿も、もちろん、この中にあった。その数は、ざっと30人は下らなかった。彼等はすでに申し合わされたように、何の迷いもなく四方八方に散らばっていった。最後のクローンが出終わり指を一本回すと、マンホールの蓋(ふた)はフワリと浮き上がり、無音で元どおり閉じられた。まるで、マジックか神技のような光景が深夜、城水家の坂下で起きていた。
最後にマンホールから出たクローン[31]は停止したまま静かに両眼を閉じた。他のクローンの姿はすでに誰一人、見えなかった。
[全員、各部署の調査に向かいました。…はい、任務を続行いたします]
指令のテレパシーが送られたあと、クローン[31]も闇の中へと消え去った。計31名のクローンには、それぞれ番号が付いているのだが、人間が見た目には、まったく違わず、区別がつかない。だが、異星人達には何番のクローンなのかをすぐ判別出来たのである。その31名はそれぞれに課せられた指令を果たすべく散っていったのである。彼等の目的は地球に存在する生物分確保にあった。クローンそれぞれに50種ずつの確保が義務づけられていた。