水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -38-

2015年09月03日 00時00分00秒 | #小説

 今の城水は、家計にまったく疎(うと)かった。覚醒してクローン化するまではひと月、どれほどの生活費が必要かは、おおよそ分かっていた城水だが、今は皆目(かいもく)、見当もつかなかった。だいいち、すべての値段が分からないのだから、乳飲(ちの)み子同然だった。かろうじてテレパシーの交信により必要な情報は入手していたが、訊(たず)ねられれば即答は出来ず、この話も危うかった。
「少し高くつくと思 うけど、いい?」
[仕方ないだろうが…]
 口では渋々(しぶしぶ)、そう言った城水だったが、内心では高くつこうが、どうでもよかった。それより、一刻も早くあらゆる情報を認識せねば…と思えていた。
「よかった…」
[あなたの服は、ポーナスにするわね]
[それでいいよ…]
 了解した城水だったが、ポーナスの意味を知らず、ポーナスという安い服になったんだと思った。
[ははは…ポーナスは、いいよな]
「えっ?! は? で、でしょ?」
[んっ! ああ、そう。で!]
 城水は危うく難を避けた。避けはしたが、気分はしょぼく萎(な)えた。当たり障(さわ)りない会話というのも案外、難しいものだ…と、城水は冷静に判断し、口を開くのを最少にすることにした。


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