[あっ、待て! 私が去るとして、どこで待てばいい]
訊(き)き忘れたことがあった城水は目を閉じ、消えたクローン[1]へ、すぐテレパシーを送った。
[お前の家の前にある坂の下だ。…他に訊(たず)ねることは他にないか!?]
[ああ…]
待つ位置はなぜ坂の下なのか…? という素朴な疑問が湧いたが、テレパシーの響きに少し怒りを感じ、城水は、疑問を訊ねることを断念した。
[では、よろしく頼む…]
姿が見えないクローン[1]のテレパシーはそれで途絶えた。城水は車に乗り込むと、いつものようにエンジンを始動させた。
帰宅すると、また雄静(ゆうせい)が表玄関の外で待っていた。
「パパにさっき会ったんだ」
[どこで、だ?]
「学校の前で…」
[そうだったか? 声をかければいいじゃないか]
「かけたよ。でも、お辞儀して、そのまま行ったじゃない。怪(おか)しいなあ・・とは思ったんだけどね」
雄静は城水の顔をジロジロと舐(な)めるように見つめ始めた。
[何か考えごとしてたんだよ、ははは…。まあ、中へ入ろう]
ここは誤魔化すしかない。城水は雄静を促(うなが)して家の中へ入った。城水を演じきるのも、なかなか大変だぞ…と城水は思った。城水なはずの城水が城水ではない訳だ。城水は城水として城水らしく生きたかったのである。その辺りの理屈は覚醒した今の城水にも分かった。