水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (21)苦(く)

2021年03月02日 00時00分00秒 | #小説

 苦楽(くらく)を共(とも)にする・・という、いい言葉がある。今日はまず、苦(く)について語ってみようと思う。語らなくていいっ! と思われる方も、寒さ凌ぎの温かいポタージュ・スープでも啜(すす)りながらお読みいただきたい。^^
 苦があれば、疲れるのは明々白々(めいめいはくはく)である。とくにその疲れは、心労(しんろう)であり、人々の心を悩ませる。
 この男、通話(つうわ)も朝から一昨日(おととい)からの苦に疲れ果ていた。疲れるといっても、身体は少しも疲れておらず、専(もっぱ)ら、その疲れは心理面にあった。
『コロナウイルスに感染したのは、俺の伯母(おば)さんの知り合いの近所のおばさんの兄さんの奥さんの兄弟らしい…。ということは、どうなんだ? …やはり、隔離対象になるのかな?』
 猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大の勢いは依然として衰えず、国を挙げてその対策に追われる矢先だった。通話は日々、電話工事の外仕事に追われていたが、勤続20年経った今、馴れも手伝ってか仕事で疲れるということはなかった。だが、伯母の知り合いの近所のおばさんの兄の奥さんの兄弟が感染し、隔離されたという現実は通話の心を完璧(かんぺき)に疲れさせていた。恰(あたか)も、自分が電話工事されているような錯覚(さっかく)すら感じる通話だった。こんな目に見えない苦に苛(さいな)まれるのは誰だって嫌(いや)である。通話もご多分に漏(も)れず、気分を害していた。テレビのリモコンを押すと、またそのニュースを流している。
『新たな情報が入りました。二時間前、佐渡ヶ島へ金の採掘目的で訪れていた男性の感染が確認されました。これで全国の患者数は5,000人を超え、5,001人となりました』
「とうとう5.000人を超えちまったよっ! 俺の隔離も時間の問題か…」
 一年後、騒動は終息し、通話は幸いにも隔離されていなかった。
「ははは…終息したか」
だが、このとき、通話は新たなVRE[耐性菌]ウイルスに感染していた。通話の心は疲れる苦から解放されたが、新たな苦が疲れる通話の身体を疲れさせようとしていた。
 こうなっては、さっぱりである。^^

 ※ 後になり、通話さんのVRE[耐性菌]ウイルス感染は陰性だと判明しました。よかった、よかった!^^

                   完


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