水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (25)こう! と思ったら

2021年03月06日 00時00分00秒 | #小説

 こう! と思ったら、なにがなんでも、こう! 動くのが疲れない最良の道だそうだ。断わっておくが、私が言った訳ではない。買い物はしたが、果たして食べられるだろうか? と案じるくらいの話だ。^^ 世の中は、そうはさせずっ! とばかりに、こう! と思ったことを阻止(そし)しようとするが、その力を削(そ)いで貫徹する! これが醍醐味(だいごみ)だろう。^^ むろん、悪いことは法律の許す範囲までだが、最近は何かと範囲が狭(せば)まり、生き辛(づら)くなったのは困りものだ。^^
 時は西暦1600年、所は言わずと知れた関ヶ原。若者がどちらに味方しようか? と迷っている。松尾山に陣を構えた小早川その人である。
「殿、ようございますなっ!」
 家老の一人が決断を促(うなが)す。
「…」
 口を閉ざしたまま馬上の人となり、腰の刀を抜く小早川。
「皆の者、よう聞けっ!!  我が敵は大谷吉継
なりっ!!」
 その叫びに軍勢は大きな雄叫(おたけ)びを上げる。その後がどうなったかは皆さんもよくご存じだろう。^^ それまで迷いに迷っていたとしても、こう! と思ったら怒涛(どとう)の勢いで彼は松尾山を駆け下り、大谷勢めがけて突き進んだのである。
「と、殿っ! 小早川が攻めて参りますっ!!」
「なにぃ~!! おのれ~~っ、小早川っ!!」
 そして四半時(しはんとき)、結果は明々白々(めいめいはくはく)だった。
「もはや、これまでっ! そなた、介錯(かいしゃく)せいっ!」
「殿、なりませぬっ!」
「憎(にく)きは小早川。この恨み、晴らさでおくべきかぁ~~!!」
 と言われたか言われてないか私は知らないが、まあ、そんなところだろう。^^ こう! と思った結果は、実に怖い。反逆者、小早川は数年後、お気の毒なことに病(やまい)で身罷(みまか)るのである。
 まあ、そんな訳で、でもないが、こう! と思った人の意志は邪魔しない方が疲れないからいい…という結論に至る。加えて、憑(つ)かれない。^^

                   完


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