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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (30)持ち物

2021年03月11日 00時00分00秒 | #小説

 何も持たなければ気を遣(つか)ったり失(な)くす心配がないから疲れない。ところが、持ち物が多いと、いらぬ心配がかかり、心労(しんろう)の原因となる。ならば、持たなきゃいいじゃないかっ! という話になるが、この世はそう甘くなく、いろいろ持ち合わせないと生き辛(づら)く出来ているのだ。^^ 通り雨に出食わしたとき、そんなこともあろうかと、バックに折り畳(たた)み傘(がさ)を忍ばせておきましたよ、ははは…と笑いながら雨傘を広げて一件落着することになる。今日はそんな、持ち物のお話だ。^^
 とある家のキッチンである。主婦が煮物を作っている。
「そうだわっ! ちょうど残りものの豚肉があったから、入れてみようかしら…」
 そう言いながら主婦は冷蔵庫から残りものの豚肉を出し、鍋(なべ)の中へ適当に放り込んだ。これがいけなかった。しばらくして鍋がコトコトと煮立ち、主婦は小皿でだし汁の味見(あじみ)をした。
「ちょっと諄(くど)いわねっ! 少し、だし汁を減らしてと…おネギと蒲鉾(かまぼこ)でも入れようかしら…」
 それから小一時間、主婦の格闘は続いたが、奮戦及ばず、鍋の中は具だらけとなり、味も散々なことになってしまった。主婦はとうとうギブアップし、ガス火をいったん止めると腕組みし、考え込んだ。
「お母さん! まだぁ~~!! お腹減ったわっ!」
「おお、お前もか…」
 そのとき、主人と娘が同時にキッチンへ現れた。
「どうした? もう食えるだろ?」
 主人は煮え過ぎた鍋を見ながら、訝(いぶか)しげに言った。
『俺もこんなに持ち物が多いと煮え切らねぇ~やっ!』
 鍋がダジャレを漏らした。もちろん、三人に声は聞こえない。その日の夕食は急遽(きゅうきょ)、店屋物(てんやもの)のうな重に変更された。
『俺の立場は、いったいどうなるっ!!』
 台所の洗い場へ座るように置かれた鍋が不満を爆発させ、愚痴った。恐らく鍋の中身は捨てられるのだろう。^^
 今の時代は持ち物がなく疲れる時代ではない。有り過ぎて疲れる時代なのである。皆さん! 持ち物は大事に有効利用し、持ち物に愚痴られないようにしましょう!^^

                   完


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