水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (44)腐食(ふしょく)

2021年03月25日 00時00分00秒 | #小説

 金属が腐食(ふしょく)すれば錆(さび)を生じる。専門家はこれを疲れた・・と表現する。金属も疲れるのである。^^ まあ、腐食しない金属もあるが、私も含め、人もそうありたいものだ。^^ 材木だともっと深刻で、ボロボロになって朽(く)ちて滅してしまうから疲れている場合ではない。では、人の場合の腐食は? ということで、今日の話を起こすことにしたい。^^
 夕闇が迫るとある家の玄関である。中年サラリーマンが自宅したところだ。
「ただいま…」
 サラリーマンが革靴を脱いで玄関を上がったところで、妻らしき女性が台所から現れた。
「お帰りなさい…。今日は早かったわね」
「ははは…俺だって早く帰る日はあるさっ! 少し疲れたから今日の残業はなしだっ! 俺もすっかり錆ついて腐食しちまったなっ! 20年も前は、こんなじゃなかったんだが…。最近は、よく疲れる…」
「もう、年なんだから…」
「ああ、それは分かってる。分かってはいるが、仕事がいろいろあってな…」
「で、解散なのっ!?」
「馬っ鹿! 今、解散されたら、答弁用に準備した資料がオジャンになるだろっ!?」
「スタッフは大変なのよね…」
「ああ、キャストを支えるスタッフの長は腐食しやすいんのさ、ははは…」
「明日はお休みだから、今日はスキ焼にしたわよ。お肉の柔らかくて安いのが入ったから…」
「肉は腐食する少し前が美味(うま)いっていうが、物はすべてそうなのかな?」
「あなたはどうなのよ?」
「俺か? ははは…俺はまだまだ美味くないさっ!」
 サラリーマンは妙なところで自信ありげに断言した。
 人は疲れる。その疲れが蓄積(ちくせき)すれば、やがて腐食し、身体(からだ)に不具合を生じる。腐食を避(さ)けるにはその事実を考えて無理しないことだろう。^^

                   完


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