水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (41)先(さき)

2021年03月22日 00時00分00秒 | #小説

 物事をやっていて、その先(さき)がどうなるか分からないと、不安定でおぼつかないから安心出来ない。安心できないと当然、疲れることになる。^^ 流行性の病気が蔓延(まんえん)しているという巷(ちまた)の報道を知れば、その先が不安になり、疲れるのは人の常である。誰だって見えない病(やまい)は怖(こわ)いが、その先がどうなろうと気にせず、なろうとままよっ! と心太(ところてん)のように太い心の持ち主は疲れることが全(まった)くない。今日はそんな先の話だ。^^
 とある繁華街である。一人の老人が、いつもの時間にいつものコースを、いつものように歩いている。
「妙だなっ? 人の気配がしない…。いつもだとザワザワ人が通るんだが…?」
 老人は辺(あた)りをキョロキョロと見回しながら歩(ほ)を進めた。そのとき、交差点の信号が赤に変わり、老人が立ち止まっていると、そこへ別の老人が、これまたいつものコースをいつものように散歩して現れた。二人は予期せず出食わしてしまったのである。^^
「おおっ! やっと人に会えましたっ! これで、ひと安心です。お宅はっ?」
 先に立ち止まっていた老人か感嘆(かんたん)しながらそう言った。
「えっ!? 私ですか? いつもの散歩ですよ、ははは…」
「なんだ、そうなんですか? 実は私もです…」
「それにしても、人が通りませんなっ!」
「はい! 例のアノせいでしょう…」
「ああ、なんとかいうアノ?」
「はあ、たぶん、そのアノだと…」
「人が多いと気疲れするもんですが、少ないのも、ですな?」
「はい、いないのも疲れます…」
「この先も、そうなんでしょうかな?」
「さあ、どうなんでしょう。私は余り先のことは考えないようにしています。先は疲れますから、ははは…」
「ははは…私もです。先は疲れます」
 二人は先のことを考えない気分で横断歩道を横切った。
 先を考えても疑心暗鬼となり疲れるだけで、それでどうなるものでもない。だから、考えない方が懸命なのかも知れない。^^

                   完


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