水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (32)複雑(ふくざつ)

2021年03月13日 00時00分00秒 | #小説

 複雑(ふくざつ)な内容は、どんな場合でも疲れる。内容は簡略、簡単、簡潔に終息するに越したことはない。まあ、内容が複雑でなくっても疲れる場合はあるだろうが、普通一般にはそうだろう。^^
 とある小学校の教室である。3年2組と書かれているから3年生なのだろう。聞こえる声からすれば、どうも算数の授業が行われているようだ。中を少し覗(のぞ)いてみることにしよう。
「お饅頭(まんじゅう)15個を、 5人に同じ数ずつわけます。1人分は何個になるでしょう!?」
 生徒達が一斉に片手を元気よく挙げる。
「はいっ!」「はいっ!」「はぁ~~いっ!」「はいっ!! はいっ!!」
「… じゃあ、鹿口(しかぐち)君。鹿口君、返事は一回でいいんですよ」
 教室内が笑い声で賑(にぎ)やかになる。
「先生! 僕はお饅頭が好きだから隠れて先に5個は食べると思います。すると残りが10個だから…10÷(わる)5で2個づつでぇ~~す!」
 教室内は笑い声が益々、大きくなり、爆笑(ばくしょう)の渦(うず)と化した。
「そうですね! 鹿口君は甘いものが好きだとこの前、先生に言ってましたね。でも、みんな同(おんな)じに分けないと…」
「僕! そんなの嫌です!」
「そんなズルしちゃダメでしょ、鹿口君!」
「はいっ…」
 担任の女性教師、角切(つのきり)はすっかり疲れていた。算数の問題が饅頭話になってしまったからである。
「それじゃ、おミカン15個でもいいわよ、鹿口君」
「リンゴじゃダメですか?」
「いいわよっ!」
 角切とすれば、何でもいいわよっ! くらいの気分である。
「リンゴだと、まあ僕は普通に食べると思います。となると…15÷5で3個づつですかっ?」
「はい、そうですねっ! お饅頭は3個づつです」
「先生! リンゴですよねっ!?」
「はい、はいっ! リンゴ、リンゴっ!」
「先生! 返事は一回ですよねっ!」
「…」
 角切は複雑な質問で、すっかり疲れることになった。
 簡単な内容でも複雑に疲れることはある訳である。^^

                   完


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