とある商店街である。コロナ禍で、すっかり客足が遠退(とおの)き、主人の精之助は、『今日は店(みせ)を閉めるか…』と深い溜め息を吐(つ)きながら思った。そういえば人波で賑わっていた街路は見る人影も消え、閑古鳥(かんこどり)が啼(な)いている。
「精之助さん、いるかね?」
そのとき、隣で店を出す薬屋の入川(いりかわ)が出さなくてもいいのに顔を出して精之助を呼び止めた。
「ああ、お隣りの灸煙堂さん…」
「なんか、儲(もう)けがないんだが、あんたとこは、どうだい?」
「ははは…いやだねっ! 私とこも同じですよっ!」
「宣言が出てからは、どこも同じですかね…」
「ええ、そうですよ、どこも同じっ!」
「まあ、お互いに、めげないで頑張りましょう!」
「そうそう! そうですよっ! めげちゃいけないっ! めげないでいきましょう!」
「数年後に思い出話で笑っていられるように…」
「ああ、そうですねっ! それを信じてっ!」
二人は笑いながら握手はせず、片腕の肘(ひじ)同士をタッチし合った。
店の商(あきな)いには、めげないで終息を信じて待つ根気が必要なようです。^^
完