水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (5)マラソン

2022年10月07日 00時00分00秒 | #小説

 こんなクソ暑いときに走るのかよっ…と、ブツブツ思いながら、オリンピック強化選手に内定した鯱(しゃちほこ)は、この日もランニング・コースを走っていた。俺はめげんが、身体がめげちまうよ…という金色の本音も見え隠れする。その隣(となり)を自転車で並走するコーチの鬼瓦(おにがわら)は、いい気なもので、ストップ・ウオッチを片手で見ながら、「よしっ! 5秒、縮まったぞっ!!」と、鬼のような面相で出さなくてもいい大声を張り上げる。
「…はいっ!」
 鯱も、返さなくてもいい返事を切れ切れの息の中から返す。
「めげるなっ! 鯱っ! ここからが勝負だっ!!」
 言われた鯱は、『あんたが勝負しろよっ!』と思いながらも、身体的にも気持的にも言える訳がなく、軽く頷(うなづ)きながら金色に走り続ける。そして、『こんなクソ暑い夏にマラソンは誰だってめげるぞっ!』と、ふたたび鯱は屁理屈でなく金色の理で思った。
 マラソンは、全選手がめげない気候で走って欲しいものです。^^

                   完


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