めげないで、やればできるっ! と意気込めば、たいていのことは出来る。
とある中堅会社に勤めるこの男、雲坂もそれを信じて日夜、奮闘していた。ただ、彼の場合は奮闘はしているものの、その奮闘ぶりが誰の目から見ても効率が悪く、とても出来そうにない…と思わせるものだった。だが雲坂は、そんな他人目を意に介さず、日夜、奮闘するのだった。
「雲坂係長、課長代行がお呼びです…」
女子社員にそう言われた雲坂は、課長代行でよかった…と、一瞬、思った。課長代行は課長→副課長→課長補佐に続く役職で、係長である自分に一番、近しい一つ上の職階だったからである。ということは、やればできるっ! と奮闘している割には業績が上がらない・・と叱責(しっせき)されたとしても、その度合いが最も小さいと思われたからである。^^
「ああ、有難う…」
雲坂は小さな声で呟(つぶや)くように言った。女子社員は気の毒そうな顔で楚々と去った。
「ああ、雲坂さん、実は…まあ、いいかっ! ははは…」
「なんでしたでしょう、課長代行?」
「ははは…どうでもいいことです。忘れて下さい」
やればできるっ! と頑張る課長代行も今一で、課長補佐に同じことを言われていたからである。その言った課長補佐も今一で、副課長に同じことを言われいた。いや、そればかりではない、このどうでもいいようなスパイラルはさらに続き、副課長は課長に、課長は部長代行に、部長代行は部長補佐に、部長補佐は副部長に、副部長は部長に…と続いていくのだった。総じて、この会社は管理職の誰もが、やればできるっ! と奮闘してはいたものの、効率は実に悪く、その経営状態は低迷していたのである。しかし、雲坂の部下の係長補佐、浮橋だけは、やればできるっ! と頑張る男で、出来た男だった。その結果、会社経営は遅ればせながら持ち直し、回復基調へと方向転換し始めた。植物で言えば、根の中の最先端の細根だ。
このように、やればできるっ! という意気込みは、まず、細部から取り組めば、その効果が出やすい・・という結論に至る。^^
完