水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (11)議席

2022年10月13日 00時00分00秒 | #小説

 落ちても落ちても、めげずに選挙に立候補する男がいた。この選挙もか…と、誰もが思える男だった。その名を紐革(ひもかわ)という。人々には、なぜ紐革がめげないのか? というその理由が分からなかった。それもそのはずで、紐革の立候補回数は優に50回を超えていたからである。一度でも当選した・・という実績があるなら話は別で、理解できた。だが、紐革の当選回数は皆無だった。当選皆無の男がめげずに立候補し続ける・・これは誰の目にも狂気の沙汰としか見えない。
 とあるとき、その訳を知りたくて我慢できなくなった報道記者の一人が、思い切ってインタービューを試みた。紐革は別に断る理由もなく、軽い気分で応諾した。
「どうしてなんですかねぇ~? 私らには、とんと、理解できないんですが…」
「ははは…議席に座りたいからですよ。ただそれだけです…」
「…議席に座りたい? 意味がよく分かりません?」
「分かりませんか? 議席…」
「議席は分かりますよっ! 議場の議席でしょ? ただ、なぜ議席に座りたいか? その理由ですっ!」
「そりゃ~あなた、簡単明瞭! 私の山林の木で造られた議席だからですよっ!」
「それで50回以上も、ですか?」
「はい…」
 紐革は、ごく当たり前のように返した。
 議員になりたい・・という理由ではなく、議席に座りたいだけの人もいる・・というお話である。他人には分からない、ごく有り触れたところに、めげない訳はあるようです。^^

                   完


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