水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (12)再審請求

2022年10月14日 00時00分00秒 | #小説

 三振[さんしん]すればアウトとなり、すごすごとダッグアウトに引き下がらねばならないが、再審[さいしん]はもう一度、社会の打席に復帰できるチャンスがある。^^ むろん、再審請求が認められれば、という仮定の話だ。とはいうものの、当の本人が諦(あきら)めてしまえばそれまでで、確定した判決は覆(くつがえ)らない。要するに、本人のめげない不屈の精神が必要となる。この男、雀田(すずめだ)も、目撃者の見間違いで犯罪が確定した哀れな男だった。だが、当の本人は無実を知っているから、当然、確定判決を不服として再審請求を考えていた。焼き鳥にはされたくない…という悲壮な思いだった。その雀田が弁護士の串炭(くしずみ)と接見(せっけん)している。
「なにか、判決が覆るような確固とした物的証拠がないと…」
「ですが、弁護士さん! 私が罪を犯したという物的証拠もない訳ですからっ!」
「はあ、それはまあ…。状況証拠と目撃証言だけです…」
「でしょ!? 私だって自殺を止めようとしたんですから…」
「はあ、それはまあ…。本人の意識が回復すれば、すべてが解決するんですが…」
「ずぅ~っと、彼は植物人間っていうじゃありませんかっ!」
「はあ、それはまあ…」
「私は止めようとした。それを遠目で見ていた方の証言でしょ! 確かに彼とは事前に喧嘩(けんか)はしてましたよっ! 喧嘩はしてましたけどねっ! 殺そうなんてとんでもないっ! 分かってくれますよねっ!!?」
「はあ、それはまあ…」
「それはまあ、それはまあって、串炭さん、ほんとに分かってんですかっ!?」
「はあ、それはまあ…」
 雀田は、弁護士、串炭の、それはまあ…にめげないで焼き鳥にならない再審請求の道を決意した。^^

                   完


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