水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -55-

2015年09月20日 00時00分00秒 | #小説

 編隊指令からのテレパシーが入ったのは、家の前の坂を下る車中だった。運転中のことでもあり、城水は保留した。携帯電話の運転中会話が道交法に触れる場合とは異なり違反とはならないが、やはり危険であることに変わりはない。城水は坂を下り切り、駐車場へ車を止めた直後、編隊指令へテレパシーを送り返した。
[あの…なにか?]
[ナニもコレもない。この星の動・植物園化計画が決定された。我々が14日後、この星を離陸して後、後続の大編隊が地球各地へ飛来する]
[なぜ、決定がそのように早く?]
[城水の家の前の坂の下に落ちていたゴミを回収し、分析した結果、地球人の思考方法に問題があることが判明した]
[それは、どのような?]
[思い上がった心理面の慢心である。この傾向はなにもこの国の人間に限ったことではない。世界各地で回収して分析したゴミからも同じ結果が得られている]
[私はどうすれば?]
[このまま任務を続行せよ。任務遂行後の行動は、前にも言ったように君の意思に任せる。では…]
 編隊指令からのテレパシーはプツリと途絶えた。城水は、こりゃ、ドエライことになってきたぞ…と不安を覚えた。とはいえ、城水としては、どうしようもなく、指令に従って生活を続けるしかなかった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -54-

2015年09月19日 00時00分00秒 | #小説

「あら…今朝も早いわね?」
[ああ、まあな…]
 城水は里子の言葉にギクリとしたが、表面上は平静を装った。冷静さは、見破られない偽装工作の一つだった。突発時の対応策の一つ<暈(ぼか)し>突発時の対応策の二<口合わせ>に続く第三の矢<平静(シカト)>である。シカトとは、若者の間でここ数十年の間によく使われるようになった流行語で、無視することを意味する。よく言えば、軽く受け流し、何もなかったように平静に対応する所作である。指令から送られたデータには、そうしたこの国の社会知識なども含まれていた。
「パパ、おはよう…早いね」
 雄静(ゆうせい)が眠そな顔でキッチンへ現れた。新聞を読む城水は、やはり平静さを装った。
[ははは…早起きは三文の徳だ、雄静]
 城水はデータ知識で得ていた古い慣用句を使った。
「なに、それ? …」
 小学一年の雄静には分かるはずもなく、そのまま洗面台へと消えた。
 いつものように朝食が済むと雄静が家を出た。城水はそのあとしばらくして家を出た。雄静のあと家を出る・・という行動パターンはデータの一部として指令から送られていた。だから城水には、そう意識する必要もなかった。この行動パターンは城水にとって二日目だったが、詳細はデータで送られていたから、城水の中ではすでに馴染(なじ)んでいた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -53-

2015年09月18日 00時00分00秒 | #小説

 その夜、里子が帰宅したとき、城水はすでにベッドへ潜(もぐ)り込んでいた。ただ一つ、クローンと化した城水には腑(ふ)に落ちないことがあった。星団から地球に派遣されたUFO編隊の最終目的が、宇宙に生息するあらゆる生命体の動・植物園計画の調査だという点である。指令からテレパシーで送られたデータには、この壮大な計画も含まれていた。もし、地球が適地と決定され、この計画が実践(じっせん)されたとすれば、地球で生息する多くの人間が極限まで消去されることは目に見えていた。一定数ずつを均等に残すという計画では、当然、絶対数の多い人間は消去されることになるのだ。その方法が殺戮(さつりく)によるものなのか、他惑星への強制移住、あるいは他の方法によるのかは城水も知らなかった。ただ、半月後に一端、地球を離れたUFO編隊が適地と判断されるデータを星団へ持ち帰れば、恐らく再飛来することは有り得た。そのときは、城水家という小さな問題ではなくなるのだ。地球規模の人類の危機が想定された。城水には、なぜ地球が宇宙生命体の動・植物園候補になったのかが腑に落ちなかったのである。他にも宇宙生命体が生存できる適地はあるはずなのだ。地球星だけがその候補地となっているのは理解できない。城水は眠れなかった。それでもいつの間にかウトウトと微睡(まどろ)んで、明け方には目覚めた。クローンと化してからは朝が早くなっていた。といっても、ここ数日のことなのだが、城水には家内のすべての事象、物といった生活環境に馴れ親しむ必要があったからだ。
 誰もいない早朝、身辺の雑用を済ませた城水、食事待ちの時を過ごすことにした。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -52-

2015年09月17日 00時00分00秒 | #小説

「うん! 同じバスに乗るからね。でも少し、話が合わないところもある」
[どんなところだ?]
「みんな、夏は外国へ行くんだって…」
 雄静(ゆうせい)は少し寂しそうな顔をした。データにはこの街一帯と城水家に生活の格差がある・・と送られていたから、その辺の事情は城水も心得ていた。
[外国か…。うちも外国へ行こうじゃないか]
「そんなこと言っていいの? ママが、お金がないから、うちは無理って言ってたよ」
 そんなことを小学一年のわが子に普通、言うかっ! と、里子の配慮のなさに城水は少し怒れたが、思うに留めた。城水家の家事情が、詳細に分析できていないなかった、ということもある。
[ははは…パパにもそれくらいの余裕はあるさ]
 城水はテンションをやや高くして言い切った。
「そうなんだ…。それよか、この前見た屋根上のUFOさ…」
[ああ、あの話か。たぶん、見間違いだろ。そんな訳、ないだろ?]
「うん、僕もそう思うけどさ。確かに見たよ…」
[ああ、分かった分かった…]
 城水は、取り合わないことにして話を流した。
 夕飯を終えると洗い物を片づけ、城水は多くを語らず書斎へ向かった。そんな城水の後ろ姿を雄静は訝(いぶか)しげに見送った。いつもなら、新聞に小一時間は費やし、じっくりと読み浸(ひた)る城水だった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -51-

2015年09月16日 00時00分00秒 | #小説

[んっ? いや、なに…ど忘れだ、ははは…]
 城水は突発時の対応策の一つ、<暈(ぼか)し>を使った。テンションが低めだったから、こちらも少しハイへ上方修正した。
「そうなの? 若狭さんね、あの方、実はアレのコレのソレなのよ」
「アレのコレのソレって?」
「あなた…どこか悪いんじゃない。いつも分かってくれるじゃない」
「パパ、アレのコレのソレだよ」
「あらまあ! ゆうちゃんの方がお利口じゃない」
 城水は、すっかり守勢に立たされた。
[ああ! アレのコレのソレなあ]
 危うく感じた城水は、突発時の対応策の二、<口合わせ>を使った。本当のところ、さっぱり要領を得ず、分からなかったのだが…。
「そうなのよ。プライドが高いっていうかさ、負けん気が強いっていうか…」
[厄介(やっかい)なお方なんだな…]
 城水は里子の話で、いくらか理解度を増した。
「あらっ! いけない! もうこんな時間! あとはお願い!」
 里子は腕を見ると、慌(あわ)てて家を出ていった。城水は、ともかく里子の追及の手を逃れられ、ホッとした。
[この辺で雄静(ゆうせい)の友達はいるのか?]
 里子が作っておいたカレーをキッチンテーブルで味わいながら、城水はそれとなく雄静に訊(たず)ねた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -50-

2015年09月15日 00時00分00秒 | #小説

 城水は改(あらた)めて里子の顔を見た。化粧を塗りたくったその顔は、この世のものとは思えず、異星人ぽかった。城水は、なぜかその顔が美人に見え、親近感が湧(わ)くのを覚(おぼ)えた。
 異星人だと見破られまいと意識する保身の心理が、いつの間にか城水の観察力を失(な)くしていたのである。
[分かった…。で、今頃からどこへ行くんだ?]
「嫌だわ、この前、言ったじゃない。奥様会よ」
 奥様会のことは以前、耳にして多少は認識していた城水だったが、その実態までは、まだ把握(はあく)していなかった。データに送信ミスがあったのか、奥様会の情報は含まれていなかったのである。
[ああ、そうだったか…。じゃあ、早く帰って来いよ]
「ええ…。お夕食会だけだから、早く済むとは思うけど…」
[けど? けど、なんだ?]
「この前、言ったと思うけど、高くつくかも…。若狭の奥様には負けられないわっ!」
 里子が珍しく息巻いた。
[ははは…]
 城水は若狭という人物を認識していなかった。これも情報データに送信漏れがあったのだ。完璧(かんぺき)なはずのデータ群に綻(ほころ)びが何か所もある。これでは、少なくてもあと半月をともにする生活の先行きが思いやられた。
[その若狭さんというのは?]
「あら? 言ってなかったかしら。銀行の頭取の…」
 城水の問いかけに、里子は怪訝(けげん)な顔をした。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -49-

2015年09月14日 00時00分00秒 | #小説

 分かれば、俺は何のためにクローン化したんだっ! と腹立たしくもなる。まあ、そう思っても、異星人化した城水にはどうしようもなかった。ここはひとつ、クローン[1]に残り約半月と言われた地球滞在期間を穏便に過ごすしかない。城水としては異星人と悟られないことが第一条件だった。そのためには、突発事態に馴れる必要があった。躱(かわ)す、スルーする、曖昧(あいまい)にする、暈(ぼか)す・・といった、あらゆる手段がいる。異星人と悟られれば、現在、留まっているUFO編隊にも影響が出る可能性があった。多くの仲間達に迷惑をかけるということは出来なかった。
 二人が玄関を上がると、里子が出てきた。
「あらっ? 珍しいわね。二人いっしょ?」
[ああ、偶然(ぐうぜん)出会ってな。なあ]
 城水は雄静(ゆうせい)を見て言った。
「うん、そうそう…。偶然って、どういう意味?」
 一年生の雄静には偶然の意味が分からなかった。里子は思わず小笑いした。当然、城水も笑うところである。だが城水は笑わなかった。というか、笑えなかったのだ。テレパシーで送られたデータは、小学1年の知能や学習程度はすべて細分化して城水の脳内へ収納されていたからだ。里子はそんな城水の顔を訝(いぶか)しそうに見つめた。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ。二人とも、カレーが温(あたた)めてあるから、冷めないうちに早く食べてね。私、これからちょっと出かけるから…」
 そう言って靴箱から靴を出す里子はいつもの普段着ではなかった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -48-

2015年09月13日 00時00分00秒 | #小説

[あっ、待て! 私が去るとして、どこで待てばいい]
 訊(き)き忘れたことがあった城水は目を閉じ、消えたクローン[1]へ、すぐテレパシーを送った。
[お前の家の前にある坂の下だ。…他に訊(たず)ねることは他にないか!?]
[ああ…]
 待つ位置はなぜ坂の下なのか…? という素朴な疑問が湧いたが、テレパシーの響きに少し怒りを感じ、城水は、疑問を訊ねることを断念した。
[では、よろしく頼む…]
 姿が見えないクローン[1]のテレパシーはそれで途絶えた。城水は車に乗り込むと、いつものようにエンジンを始動させた。
 帰宅すると、また雄静(ゆうせい)が表玄関の外で待っていた。
「パパにさっき会ったんだ」
[どこで、だ?]
「学校の前で…」
[そうだったか? 声をかければいいじゃないか]
「かけたよ。でも、お辞儀して、そのまま行ったじゃない。怪(おか)しいなあ・・とは思ったんだけどね」
 雄静は城水の顔をジロジロと舐(な)めるように見つめ始めた。
[何か考えごとしてたんだよ、ははは…。まあ、中へ入ろう]
 ここは誤魔化すしかない。城水は雄静を促(うなが)して家の中へ入った。城水を演じきるのも、なかなか大変だぞ…と城水は思った。城水なはずの城水が城水ではない訳だ。城水は城水として城水らしく生きたかったのである。その辺りの理屈は覚醒した今の城水にも分かった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -47-

2015年09月12日 00時00分00秒 | #小説

 城水が至近距離まで近づいたとき、車の前ドア横に立つクローン[1]がテレパシーを送った。
[どうだった?]
 直接、話せばいいじゃないか…と、腹立たしく思えた城水は、[なにが?]とだけ短く返した。その間にも二人の距離は縮まり、目と鼻の先になった。
[当然、学校内のことだ…]
 クローン[1]は怒る様子もなく、冷静に口を開いて答えた。
[どうということはない…無事だ]
 そこは事実と少し違っていたが、城水は虚勢を張った。どうにかこうにか無事に済んだ…が本音だったのだ。
[そうか…それならよかった。指令にはそう伝えておく。明日以降もよろしく頼む]
[ああ。それはいいが、いつ地球を離れるのだ]
 城水がそう訊(たず)ねたとき、クローン[1]は徐(おもむろ)に腕を見た。腕には未知の計器らしきものが装着されていた。
[約、半月後だ。その前日、今朝、お前に渡した物質が知らせる…]
 クローン[1]は、やはり冷静に答えた。
[私は、どうすればいい?]
[それは以前にも言われたはずだ。この地に残るも我々とともに去るも、お前の判断次第である。では…]
 言い終えると、クローン[1]は透明になり、跡形もなく消え去った。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -46-

2015年09月11日 00時00分00秒 | #小説

 「分かりました…。今日も一日、頑張ろう~~!」
 渋々、了解した到真(とうま)は、声を出して、両手の手首をブラブラと振り始めた。全員、がそれに従うようにブラブラと振る。水平のままだから、この場面を部外者が見れば、なんとも異様な光景なのだが、教室内の生徒達の顔は真剣だった。城水も幾らか遅れて手首を振った。
「はいっ! やめぇ~~!」
 到真がふたたび掛け声をかけて手首を振るのを止めた。すると、全員が続き、ピタリと手首の振られる光景が消えた。到真は両腕を下ろした。
「終わりっ!」
 そう言い終わると到真は着席し、全員が座った。城水は合わせるだけだった。
「あれっ? 先生…ここで出欠点呼でしょ?」
[ああ、そうだ…そうだったな。先生、今日は疲れてるんだ。ははは…]
 城水は笑って暈(ぼか)した。男子も女子も教壇に立つ城水の顔をシラァ~とした顔で見つめた。城水は、こりゃ、拙(まず)いと思い、急いで首席簿を開けると点呼を始めた。
 城水は、飛び来る弾(たま)を避(さ)けるような努力? でなんとか一日を凌(しの)いだ。帰りの駅に着いたときはすっかり疲れ、うたた寝で危うく乗り過ごすほどの睡魔に城水は襲われていた。城水は、飛び来る弾(たま)を避(さ)けるような努力? でなんとかその日を凌(しの)いだ。帰りの駅に着いたとき、うたた寝で危うく乗り過ごすほどの睡魔に城水は襲われていた。ふらつく足で駅を出た城水は、いつものように徒歩で展開していたのである。そこには、また有り得ない光景が城水の前に展開していたのである。駐車場に置かれた自分の車の前には、もう一人の自分が待っていた。クローン[1]だった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする