⑩今回は「作家・津本陽さん」によるシリーズで、豊臣秀吉についてお伝えします。――――――――――――――――――――――――彼は信長のように、他者の存在を無視する傍若無人のふるまいは見せず、小大名の陪臣(ばいしん:家来)に対してさえ、丁重に応対していたが、小猿と呼ばれた頃よりもなお縮んだ矮躯(わいく:背丈の低いからだ)から、すさまじいまでに精気を放射していた。秀吉の大坂城出陣を見送った諸臣のなかに . . . 本文を読む
⑨今回は「作家・津本陽さん」によるシリーズで、豊臣秀吉についてお伝えします。――――――――――――――――――――――――秀吉が大坂の地に安土城にはるかまさる、巨大な城郭建築を出現させようとしているのは、諸国大名に工事の様子を実見させ、驚倒させる狙いもあってのことである。五万人の人足がはたらくさまは、どのような大大名の領地でも見られるものではない。五畿内の住民たちは、前代未聞の大工事の状況をひと . . . 本文を読む
⑧今回は「作家・津本陽さん」によるシリーズで、豊臣秀吉についてお伝えします。――――――――――――――――――――――――それに、ぐずぐずしていれば、光秀の天下が固まってしまう恐れもある。いかに主君の仇とは言え、官僚としての才覚があり、旧幕府勢力などとも通じている彼が、畿内を固めたとなれば、情勢は地滑り的に彼の思う方向に動いてしまうやも知れない。まわりの武将たちにとっては、勝ち馬に乗ることこそが . . . 本文を読む
⑦今回は「作家・津本陽さん」によるシリーズで、豊臣秀吉についてお伝えします。――――――――――――――――――――――――武器は小荷駄(こにだ)で送るか、現地調達する。そして、身軽な兵隊を通常の軍団移動の二倍から三倍のスピードで動かしうる能力は、まさに敵の意表をつくものであつた。急速な移動のさいには、侍たちは甲胃をつけず、半裸で戦場へ馬をむける。平生(へいぜい)から養っている″兜着( . . . 本文を読む
⑥今回は「作家・津本陽さん」によるシリーズで、豊臣秀吉についてお伝えします。――――――――――――――――――――――――石松丸が生まれたあとで、南殿(みなみどの:秀吉の側室)に嫉妬をもったおねが、安土の信長のもとへご機嫌うかがいに参向(出向くこと)し、夫の行状について訴えたことがある。のちに、その件について信長からつぎのような手紙がおねに届いた。「そなたはどの女人を二度とめとれぬのに、あの禿( . . . 本文を読む