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未来を開く「島国根性」(後編)

2023年03月08日 | 日本
日本人の島国根性が、世界一豊かで平和な社会を築き上げた。

(大陸国の遠心力)
空間限定の島国では、協調精神という求心力が働くが、移動の自由な大陸国では遠心力が働く。中国では貧しい内陸部から豊かな沿岸部へと大量の人口が移動している。経済停滞気味の旧満洲地域から、高成長の広東省あたりまで、職をもとめて大陸を縦断する人々も多い。また、東南アジアから遠くサンフランシスコ、バンクーバーなどにも大量移住して、巨大な華僑社会を形成している。逆に大陸内では様々な少数民族を抱え、軋轢(あつれき)が絶えない。

流動性の高い国民を抱える大陸国の運営は大変だ。国民を繋ぎとめ、国の結束力を高め、愛国心を発揚しなくてはいけない。複数民族の利害は対立する。こちらを立てれば、あちらが立たず。自由にやらせれば内乱が生じ国家が分裂する。

大陸国は、国民を繋ぎとめる単純明快な国家理念を常に持ち続けなければならない。マルクス主義に基づく社会主義国家建設という理念の破綻と共に、あの巨大なソヴィエト連邦は空中分解した。市場経済導入は、中国にとって大きな賭けだ。中国の指導者は共産党一党独裁を絶対捨てないだろう。それは、過去の歴代王朝の超権力に替わり、人口13億の大国を統べる中華思想自力維持の砦だからだ。

マルクス主義とか中華愛国主義などというイデオロギーで国民を縛らなくとも、自然な協調精神で統合を維持できる島国の方が、国民の個人的自由と、共同体の統合とを両立させやすい。それは社会の安定と発展のために不可欠の基盤である。

(イギリスの「海洋民的島国根性」)
島国を囲む海を「外界を隔てる壁」と捉えれば、そこに、悪く言えば、広辞苑の「他国との交渉が少ないため視野がせまく、閉鎖的でこせこせした性質」、よく言えば「共同体の中での協調精神、勤勉、誠実」という島国根性が生ずる。これらは「農耕民的島国根性」と言える。

もう一つ「海洋民的島国根性」と言うべきものがある。周囲の海を「海外とつながる道」だと捉えれば、その海を通じて外国と交易をしたり、移住したり、時には侵略して植民地としたりする進取の精神が生ずる。

海洋的島国根性の代表がイギリスである。ヨーロッパの東端の小さな貧しい島から、世界の7つの海を支配する大帝国を築き上げた。

島国イギリスと大陸国フランスは、植民地化競争のライバルだったが、そのアプローチは対照的だった。フランスは大陸国としての中央集権的な政治システムや独自の文化を植民地に持ち込む同化政策をとり、現地住民との混血もイギリスよりは積極的だった。だから、アフリカのコートジボワールや南インドのマドラスには、今日も小綺麗なフランス風の街が残り、フランス系の白人や混血児が行き交っている。

それに対して、イギリスは大陸の奥深くには入り込まず、現地の有力者による支配をそのまま活用して、自らは沿岸部における交易で収益を確保することを主眼とした。

面にこだわる大陸国と、点と線で要所を押さえる島国では、そのスピードにおいて圧倒的な差があった。イギリスが植民地化競争でフランスを圧倒したのも、「海洋的島国根性」を積極的に発揮したからである。

(「海洋的島国根性」を支える情報能力)
イギリスの「海洋的島国根性」のもう一つの強みは、その情報能力にある。どこで何を買い、それをどこに売るか、という交易を発展させるには、各地での情報収集が成否の鍵を握る。

たとえば、アフリカから調達した大量の奴隷を使って、アメリカで綿花を栽培し、イギリスでそれを綿布にして、アフリカその他の市場に売りさばくという「大西洋の三角貿易システム」。さらにシナから茶を買うために、インドの阿片をシナに売りつけ、インドにはイギリスの工業製品を売る。こうしたグローバルな交易は、イギリスの情報能力によって構築されたものだった。

イギリスの対岸のヨーロッパ大陸には、フランス、スペイン、イタリア、オランダ、ドイツ、ロシアと多くの国々がひしめいている。これらの大陸諸国どうしが、絶えず合従連衡に明け暮れていた。イギリスは海を隔てていた分、距離を置いて、各国の動きを観察し、情報を集め、戦略的に介入することができた。この大陸に近い島国としての絶妙の位置が、イギリスの情報能力を磨いたと言えよう。

司馬遼太郎は『坂の上の雲』の中で、こう述べている。
英国というのは英国の機能そのものが一大情報組織といっていいほど、各国の情勢を精力的に収集し、それを、現実認識についてはもっとも適したその国民的能力をもって分析していた。英国の情報組織は、その外務省がいわばその玄人であったが、しかしその海軍省も情報室に大きな機密費をあたえて海外情報の収集についてはいかなる国の海軍よりもすぐれていた。

(島国の代表選手、日本)
イギリスとともに、世界の島国の代表選手が、我が日本である。世界の48の島国の中で、日本よりも広い面積を持つ国はインドネシア、マダガスカル、パプアニューギニアの3つしかない。

人口はインドネシアについで世界第2位。国民総所得は総額でも、一人あたりでも、もちろん世界第1位。平均寿命に到っては、大陸国も含めても世界1位である。日本こそは「偉大な島国」と言って良い。

島国としては広い農耕面積と農業に適した気候に恵まれて、日本人は「農耕的島国根性」を高度に発展させてきた。その協調精神、勤勉さ、誠実さは、世界でも比類のないレベルである。工業分野は、一人の天才よりも、大勢のチームワークを必要とするので、この強みが特に顕著に発揮され、車やエレクトロニクスなど日本の高度の工業製品が世界市場をリードしている。

また、瀬戸内海や多くの島嶼(とうしょ)を持つ地形、豊かな漁業資源は、古来から日本人の海洋民的島国根性を磨き上げてきた。海外に向かう進取の精神、そして情報能力の才は、グローバルにビジネスを展開する日本の商社がいかんなく発揮している。

これだけの広い面積と大きな人口を持つ島国が、協調精神、勤勉、誠実の「農耕民的島国根性」と、進取の精神と情報能力に長けた「海洋民的島国根性」を併せ持ったら、世界有数の豊かで平和な社会を実現しえたのも当然であろう。

(未来を開く「島国根性」)
今後の我が国の進むべき方向を考えるには、「農耕民的島国根性」と「海洋民的島国根性」の視点から見てみることが一つのヒントになろう。

たとえば農業を保護し、農産物輸入の自由化を少しでも遅らせよう、というのは、まさに「他国との交渉が少ないため視野がせまく、閉鎖的でこせこせした性質」、すなわち悪い意味の農耕民的島国根性である。日本企業の優れた科学技術と日本商社の情報能力を活用すれば、高品質の農産物を生み出して海外に輸出することもできるだろう。農業に「海洋民的島国根性」を注入して、新たな発展を目指すのである。

教育面でも、国内でしか通用しない前世紀的な社会主義が未だに蔓延(はびこ)っているのは、農耕民的島国根性の悪い面が出ている。これも教師たるものは全員、海外での1、2年の研修
を通じて、海洋民的島国根性を身につけさせることで、相当程度、良くなるだろう。

我々自身が持つ「農耕民的島国根性」と「海洋民的島国根性」の素晴らしい面を自覚し、それらをいかに組み合わせて発揮していくか、そこから日本の未来を考えることが出来よう。

(文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
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