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「プロ市民」による風評被害

2020年10月09日 | 日本
震災直後の日本社会はその痛みをみなで分かち合おうとした。それが半年すぎるうちに「我欲」にまさる人たちの発言や行動が目立つようになってきた。救援から復興へと向かいつつあるとき、被災地を応援しようと企画されたイベントが「放射能が拡散する」という市民の声を受け、中止されるケースが相次いだ。

たとえば2011年9月18日、愛知県日進市は「にっしん夢まつり・夢花火」で予定していた被災三県の花火を含め計二千発の打ち上げを、「汚染された花火を持ち込むのか」などという市民からのクレームを受けて福島県産の花火の打ち上げを中止した。クレーム件数は約20件だったという。

8月16日に京都市で行われた「五山送り火」でも同様な問題が起きた。震災の津波でなぎ倒された岩手県陸前高田市の国の名勝「高田松原」の松で作った薪を燃やす計画が「放射能汚染が心配」などとする市民の声を受け、二転三転したあげくに中止となったのである。たしかに松の表皮部分から1キロ当たり1130ベクレルの放射線セシウムが検出されたが、これは「吸い込んでも健康に影響がないレベル」だという。

ほかにも、風評被害に苦しむ福島県の生産者を支援するため、福岡市の商業施設でオープン予定だった福島県産品の販売所が、「汚染された農産物を持ち込むな」「不買運動を起こす」などという抗議メールを受けて出店断念に追い込まれたという報道もあった。

カメラマンの宮嶋茂樹氏が「風評被害拡大させる『プロ市民』」と題してこう憤慨(ふんがい)した。
<何でも反対、反核、反戦、平和をお題目とする「プロ市民」のしわざや。プロ市民はすぐ子供をダシにするのが特徴や。漫画家が“ちょっと変わった家”建てたら、気分が悪くなった。近所にサバイバルゲームのフィールドができると、迷彩服見て子供が怖がって外に出られん――。これらと同じ連中である。

プロ市民は単なる「地域エゴ」を市民運動と呼ぶ。日本にはプロ市民が信奉(しんぽう)する憲法があり、表現、言論の自由が確かに認められている。反政府やろうが反原発やろうが、どんな勝手な意見述べるのも自由やがおまえらのエゴで同じ日本人が風評被害に苦しめられとんのやで>

憤(いきどお)りながら、宮嶋氏は自省を忘れない。
<しかし、不肖・宮嶋とてプロ市民のこと言えん。3月15日、福島第一原発が水素爆発起こした翌日は南相馬から真っ先に脱出、土砂降りの雨の中、原付きで逃げ回ったのである。

それでも福島に戻った。緊急時避難準備区域解除になる前にも、南相馬に戻った市民も少なからずいる。そこが生まれ育った故郷だから、そこに家や仕事があり、家族が隣人が友人がいるからである。たとえガレキに埋もれてても、たとえ原発の近くでもである。

そこに住むなというのか、なぜ同じ日本人として福島の苦しみを共有しようとしない。なぜ東北の悲しみが理解できない、プロ市民は。おのれは安全地帯にいて危機感を煽(あお)るだけ煽る。汚染されとる、アブナイとヒステリー起こし、風評被害拡大させとんのはどいつや!>(平成23年10月13日付『産経新聞』)

「そこに住むな」というのは、計画的避難区域に指定されながら村民約六千人の全村避難の回避を模索した飯舘(いいたて)村の菅野典雄村長に、村内外から「殺人者」「住民をモルモットにするな」という批判や中傷のメールが毎日何通も送りつけられたことを指している。

だが、菅野村長はじめ村民は故郷を守るために努力を続け、いまも民間工場など9事業所が村外から通う従業員によって操業を続けている。ここにも「災前派=戦後派」と「災後派=戦前派」の葛藤(かっとう)が見られる。宮嶋氏がいう「プロ市民」とは「災前派=戦後派」のことである。

(日下公人著書「『超先進国』日本が世界を導く」より転載)

---owari---
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