では、これから来る時代、この日本を中心とする新しい時代に必要とされる考え方は、いったい何でしょうか。その時代原理を知りたいと思うならば、今までの数十年において、みなさんが是(よ)しとし、価値あるものとしてきた原理を、もう一度、疑うべきなのです。みなさんが無前提によきものとして受け入れた原理、教育を受けてきた原理こそを、もう一度、疑うところに、新時代の芽は生まれてくるのです。
たとえば、戦後、批判を許さなかった考え方に、「民主主義」があります。これは批判を許さぬものであって、ここ六十数年の国是というべき考え方でした。そして、これについては無前提によいものだとされてきました。
しかし、よくよく考えてみたいのです。日本人が、無前提によいものだとして教わり、そして受け入れていた民主主義なるものは、日本では、じつはひじょうに形式的で皮相な解釈が行われていて、それが日本で蔓延(まんえん)しているのではないか、ということです。
民主主義の大国であり、資本主義と相まって、その最大の繁栄を誇ったアメリカであっても、その民主主義の源流はどこにあるかというと、それは、メイフラワー号によってイギリスから渡った清教徒(ピューリタン)たちの考えから始まっているのです。
彼らは神の子としての使命に燃えて、理想的な新世界をアメリカに創ろうとして、自助努力の精神を忘れずに建国しました。そして、丸太小屋のなかから出てきたリンカーンのような指導者でも是しとするような、素晴らしい国家が生まれてきたわけです。
もちろん、アメリカがいま退廃期に向っていることは周知の事実ですが、民主主義には、その発展の地において、その出発の時において、道義的基盤、精神的基盤、倫理的基盤というものが確固としてあった、ということを忘れてはなりません。
さらに、二千数百年の昔にさかのぼってみるならば、ギリシャの時代に是しとされた民主主義はどうだったでしょうか。当時の民主主義社会においては、神を否定する者など一人もいませんでした。当時は、デルフィーの神殿があった時代です。神と民主主義が共存していた時代だったのです。
では、神と民主主義が何ゆえに共存できたのでしょうか。民主主義というものは、一人ひとりの持っている才能やエネルギーといったものを最大限に開花させるという、素晴らしい面を持っているわけです。最大限に開花する繁栄主義とも言い換えることができるこの民主主義は、その方向性がひじょうに大事なのです。
その方向性とは、いったい何でしょうか。その方向性こそ究極の理想であり、それは「仏の理想」です。仏の理想を地上に実現し、仏の国を建設するという目的のもとに、民主主義は最大の開花を迎えるのだという歴史的事実を、忘れ去ってはなりません。
戦後六十数年間、日本人はそのことを忘れてきました。民主主義とは投票型民主主義のことであって、多数の意見が通るというだけの形式的民主主義だと思いがちです。
仏も神も否定し、政治の崇高(すうこう)さも否定し、ただ数の原理を求めてきたということは、ギリシャの時代の末期に起きた衆愚政(しゅうぐせい)への転化が、すでに始まっているということです。
民主政が衆愚政に転化する契機は何でしょうか。理想を失って、個人が自分の欲得や利益のために奔走(ほんそう)しはじめるときに、それは衆愚政という最も醜(みにく)いものへと転化するのです。その危険が、すでにアメリカには出ています。日本にも出はじめてきました。このようなものは本当の民主主義から離れているのです。
民主主義というものは、優れた人びとが、理想実現のために力を合わせてがんばってこそ、起業家精神や倫理的精神を持って理想社会を築かんとするときにこそ、最大の成果を上げることができるのです。
しかし、各人が自分の欲得のために走っているときに、その多数の意見が全体の意見になるならば、まさしくこれは、独裁者に支配される全体主義の前兆ともいうべき大衆支配制の始まりとなるのです。民主主義体制をつくっている一人ひとりは、目覚め、理想に燃えた人たちでなくてはならないのです。
そのためにも、勉強をしなければならないのです。しっかりと学び、自分の思想、意見というものを確立しないと、表面的な、皮相な考え方に煽動(せんどう)されてしまいます。そうしたものは、すでにあちこちの言論に出ています。それに国民全部が煽動されるようになれば、これは大きな転落になっていきます。みなさんの前途は暗いものになっていくのです。
根本の精神というものを、道徳的基盤というものを、倫理的精神というものを持った人たちが、努力し、競争し、そして発展してこその民主主義社会であるということを、もう一度、振り返らなければなりません。
そして民主主義は、戦後のマスコミが否定してきた宗教と相容(あいい)れないものでは決してないのです。これを間違ってはなりません。宗教を民主主義の敵のように考えている人たちがマスコミにはいますが、これは勉強が足りないのが原因です。
---owari---
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