北朝鮮が初の水爆実験の実施を発表した。北朝鮮の核実験は2013年2月以来通算4回目で、金正恩体制下では2回目だ。本当に水爆かどうか、真偽はハッキリしないが、国際的な孤立がますます深まるのは間違いない。金正恩第1書記の狙いはどこにあるのか。
関西大学教授の李英和氏(北朝鮮経済論)はこう言う。
「注視すべきは、どの国に向けたパフォーマンスなのかということです。米朝対話の無条件再開の足掛かりとの見方もありますが、任期が1年を切ったレームダックのオバマ大統領は相手にならない。
金正恩が、ひと泡吹かせようとしているのは、中国の習近平指導部です」
北朝鮮にとって数少ない友好国である中国との関係は13年の核実験後、冷え込んでいる。習近平国家主席は慣例を破って14年7月、中国の最高指導者として初めて北朝鮮より先に韓国を訪問。今回の水爆実験表明にも「情勢を悪化させるいかなる行動もやめるよう強く促す」などと、反発する声明を出した。
しかも、北朝鮮は過去3回の核実験では欠かさなかった事前通知をしておらず、メンツを潰された中国が締め付けを強めるのは必至だ。
「年明けの金正恩の初訪中実現に向け、中朝両国は具体的な話し合いを重ねていた。その露払いとして昨年12月にモランボン楽団の北京公演がセットされ、水面下で交渉が進められていたのですが、空中分解してしまった。
習近平側は核放棄をしなければ、正恩を迎え入れないと一歩も譲らず、前提条件なしでの中朝関係の改善を図ろうとした金正恩が激怒したからです。
モランボンが北朝鮮に引き返したのが12月13日、金正恩が水爆実験の実施命令を出したのは12月15日です。親中派の大物だった叔父の張成沢元国防副委員長を処刑し、中国寄りの幹部は一掃され、周りは茶坊主ばかりになった。
それで、将棋盤をひっくり返すような大バクチに出たのでしょう」(前出の李英和氏)
この1年間の金正恩の口癖は「きのうの共和国と今日の共和国は違うことを中国に見せつけなければならない」だという。
■安倍首相は日朝交渉打ち切りへ
一方、金正恩の暴走が棚ボタになったのが安倍政権だ。拉致問題の再調査は一向に進展せず、解決の糸口さえ見えていない。
「自民党内の対北強硬派の間からは、緩和した独自制裁の復活を求める声が日に日に高まっています。
しかし、それを実行すれば対北政策の失敗を認めることになるため、安倍首相は二の足を踏んでいた。
日朝交渉をどう着地させるかが課題になっていた政権にとって、水爆実験はいい口実です。
国際協調を盾に、交渉打ち切りの流れをつくるでしょう」(永田町関係者) 安倍首相の動きは早かった。
朝鮮中央テレビが「特別重大報道」を放送後、1時間足らずで「今回の北朝鮮による核実験の実施は、我が国の安全に対する重大な脅威であり、断じて容認することはできない。
強く非難する」とコメント。国連安保理の非常任理事国の立場をフル活用して制裁決議採択を働きかけ、7日朝はオバマ大統領に電話会談を呼びかけ、「国際社会が断固たる措置を」と訴えた。
こういう時こそ、冷静な対応が必要なのに、トップが一番コブシを振り上げているのだから怖くなる。
この半年の北朝鮮はイベントが目白押しだ。8日に金正恩、2月16日には父親の故金正日総書記、4月15日には祖父の故金日成主席の誕生日を控えている。
4月25日に軍創建記念日、5月には約36年ぶりの朝鮮労働党大会を予定している。追い詰められた北朝鮮がどう動くかは、中国を筆頭にした国際社会の出方次第だが、実験を政治利用し、世論をあおるような動きには監視が必要なのは言うまでもない。