習政権が、市民活動家のみならず、共産党員や一般メディアに対しても言論統制を強めている背景には、経済成長が鈍化する中、国民の不満が噴出することへの恐れがある、と12月5-11日号の英エコノミスト誌が報じています。
2015年は、政府の政策を批判したとして複数の省の幹部が、反腐敗委員会によって逮捕された。また、10月には、政府の政策に関する党員の「否定的意見」や「無責任な発言」を禁ずる新たな行動規約が承認された。
こうしたイデオロギー政策によって、毛沢東批判も再びタブーになった。ある人気TV解説者は、毛をからかう京劇の言葉を口ずさんだだけで解雇された。
締め付けはメディアにも及んでいる。先月、新疆日報の編集長がクビになったことは、新疆の厳しいテロ取締りに懸念を表明したためだった。
リベラルで知られるSouthern Weekend、Southern Metropolis、Southern Daily各紙には検閲官が訪れた。その後、これら各紙は国慶節の軍事パレードについて提灯記事を掲載した。これら新聞への人々の期待や好印象は吹っ飛んでしまった。9月には、50の報道機関が「自主規制協定」に署名し、「党と国家の印象を損なうような意見を発表あるいは広める」ことはしないと約束した。
市民活動家、大学教授、チベット人などへの検閲も、習政権になって強まったと米国のNGOは指摘する。この夏には百人以上の弁護士も検挙された。
政権発足以来、報道の自由や人権のような「陰険な」西側の考えを否定する一方、憲法の重要性を挙げて、命令・統制とのバランスをとってきた習が、統制へと強く傾斜し始めた背景には以下の事情がある。
第一に、反腐敗運動が困難な局面にさしかかってきた。既に党幹部数千人を捕らえたが、今年は対象を地方幹部や国営企業幹部にも広げており、習は、運動をさらに進める上で党員の意見は制限する必要があると判断したのだろう。
第二に、政府は、近年活発化するSNSへの統制を強めようとしている。マイクロブログを規制する新ガイドラインが作られ、刑法の改正で、ネット上で「噂を広める」ことは犯罪となった。何が噂に当たるかの定義はされていない。さらに、サイバー安保法が導入されれば、IT企業はネット上の匿名性の制限と、「安全に関わる事件」の報告を義務付けられることになろう。
第三に、経済が減速する中、党の支配体制が労働争議等の騒乱によって脅かされるかもしれない恐怖がある。党は、国民の生活水準の向上を正統性のよりどころとしてきたが、それが鈍ってきた今、人々が党に不満を抱く可能性があり、そうした心配の芽は早い内に摘み取ろうということだ。
習は経済成長が鈍化した現在の状態を「新常態」と呼んでいるが、言論統制の強化も「新常態」になりつつある、と報じています。
英エコノミスト誌の解説記事が、習近平政権が「反腐敗闘争」を続け、言論統制を強めているが、これは今や中国政治の「新しい常態」ともいうべき現象を呈していると述べています。
「虎も蠅もたたく」とのスローガンのもとに始まった「反腐敗闘争」はそろそろ終焉に向かうのか、と想像されていましたが、実体は対象を変えて続いており、その対象が国営企業幹部、地方幹部、ソーシャルメディアなどに広がっていると言います。
内政面では、胡錦濤時代には、「和諧社会」などというスローガンが見られたように、政敵を言論抑圧で追い詰めることはそれほど多くはありませんでした。習近平体制下では、敵を抑圧することが常態となったようであり、これはエコノミスト誌の指摘する通りです。
習近平は党内に「小組」などをつくり、そこを通じて権力を固めてきました。しかし、他方「反腐敗汚職キャンペーン」をつうじて多くの政敵をつくりだしたことは、今後、習指導部に対する根強い不満・反発を生み出す要因ともなり得ます。
とくに近年、中国でも広範囲に使用されるようになったソーシャルメディア、ネットなどを規制する新たなガイドラインがつくられ、「噂を広める」ことを規制するようになってきました。「噂を広める」とは、一体何を意味するのでしょうか、定義が曖昧なことが一大特徴です。
これまでのところ、中国共産党一党支配の正統性の最大のよりどころは、経済成長にあった、と見ることができます。その点では、最近の経済状況の減速や悪化は、党への不満の浸透、拡大の大きな原因となるものです。これを習体制は「新常態」の言葉を使い、言論統制によって乗り切ろうとしていますが、下手をすると政権不安定化の悪循環に陥る可能性があります。
例えば、最近の中国の諸都市における大気汚染の状況一つを取ってみても、これらを適切に処理できない状況が続けば、大きな社会不満鬱積の火種になるでしょう。