瀬戸内寂聴さんが死亡したという。99歳の大往生であるが、最後の瞬間まで生への執着はあったのだろうか。彼女は、若い時に様々な経験をし、貞淑とか、夫に従うとか、母親にとっての子供の大切さとか、というような当時の常識には捉われない生き方をしてきた人であった。また、性をテーマにする小説も多く書き、異性関係での経験も豊富であったと言われる。1973年に出家したのも、男性関係の清算という目的もあったのではとも噂された。彼女の生き方を考えると、「空即是色」(固定的な実体がなく空であることで、はじめて現象界の万物が成立するということ。万物の真の姿は実体がなく空だが、その空は一方的にすべてを否定する虚無ではなく、それがそのままこの世に存在する物の姿でもある意。 )とか、密教の大生命賛歌とかの言葉が浮かんでくる。
恋愛とか、性欲とかは、ある意味では、生物としての人間本能に基づくもので、しかし、俯瞰的に考察すると、「色即是空」(この世に存在する全てのものには実態がなく、空無である。)とも言える。恋愛とかは、自分勝手な思い込みによるものかもしれないが、誰かと繋がっていたいという人間本能までも否定することはない。我々が生きていくということは、自らの欲望や自らの欠点をも肯定することではなかろうか。彼女は、死刑制度に反対であったが、どんな極悪人といえども、寿命が尽きるまでは生き続けるべきだということの大切さを思っていたのではなかろうか。 それは、この地球に生きている我々個々人のことでもあろう。