夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「五輪 東京、北京、パリ、ロス、すべて正常に開催できない可能性」

2021-02-07 10:35:34 | 社会
 森発言で、東京はさらに中止の方向へ
 ただでさえ、東京オリンピック・パラリンピックの開催が危ぶまれていたが、森組織委員長の女性蔑視発言で中止が濃厚になった。森喜朗を辞めさせられない日本に、海外の政府もマスメディアも、このままの状態で開催すべきだと言うことは絶対にできない。否定しないことは、性差別を容認していると見做されるからだ。
 東京の開催に事実上最も強い影響力を持つバイデン政権は、コロナ対策、対共和党対策など国内問題に手一杯で、五輪には態度を明らかにしていない。アメリカ五輪委員会は開催されれば、選手団を派遣する意向だが、出入国管理という国家の問題がからむので、バイデン政権の判断で当然、一変する。開催を強行したいIOCと日本政府は、開催判断をできるだけ伸ばし、コロナ収束の兆しを期待しているようだが、実際には不可能に近い。4、5月には、ワクチン接種も日本以外では進み、世界的には感染も減少しているだろうが、せっかく減少している状況で、「スーパースプレッド(超拡散)」の最大のリスクである五輪を強行すべきとはならない。ウイルス変異種の拡散リスクもあり、元の黙阿弥になる恐れを選択することはできないのだ。
 1月に豪州で実施された国際テニス大会でも、入国選手は2週間の完全隔離が義務付けられた。実施された場合の7月の東京でも、入国管理は緩めることはできず、数万人規模のPCR陰性証明、選手・関係者隔離、健康把握の完全な追跡など不可能である。それでも、強行すれば、ごく一部の海外選手と、日本選手、それに政治的思惑から大量に選手を派遣する中国選手との2か国+α競技大会のようなものになるだろう。もはや、オリンピック・パラリンピックではない。
 北京冬季五輪は、西側ボイコットが濃厚
 北京で2022年1月に冬季五輪が開催が予定されているが、モスクワ五輪の時以上にボイコットする国は多いだろう。理由は中国政府の香港への民主主義弾圧と新疆ウイグル自治区への人権抑圧問題である。
 香港は、法的な意味で中国領土の内政問題と言えなくもない。しかし、ウイグル自治区での人権抑圧は、内政干渉などと言えるものではない。人権抑圧は、国家の枠組みを越えて許されないというのが、国際的な認識になっているからだ。CNNは、2月5日に180の人権団体がウイグル人等への人権侵害を理由にボイコットを呼びかける書簡を発表したと伝えている。また、英BBCは3日、ウイグル人への組織的レイプや性的虐待を受けたという収容所女性たちの証言を報じている。それ以前に、アメリカ政府もウイグル族の人口増加が止まったことを根拠に、新疆ウイグル自治区でジェノサイド(集団虐殺)が起きていると認定しているのだ。ジェノサイドとは、ナチスが行ったことでもある。
 バイデン政権も国内問題が一段落すれば、五輪に対する態度を明らかにするだろう。東京に対しては、小規模の選手派遣は容認するとしても、中国の人権問題は黙認できない。「分断」しているアメリカで、中国批判だけは民主党も共和党も一致できるからだ。
 今のところ、反中国の急先鋒は、英国、オーストラリア、カナダである。EUは反ロシア一本で、昨年末に中国と投資協定を結ぶなど中国批判は抑えている。しかし、アメリカ政府が中国人権問題を大々的に取り上げたら、無視することはできない。西側メディアは、国連主導の第3者調査を受け入れない中国を徹底して批判することになる。
 1980年7月のモスクワ五輪をアメリカがボイコットを提唱したのは、半年前の1980年1月である。来年2月の北京での開催まで、1年もある。モスクワの時は、英国、フランス、イタリアなど欧州諸国は参加した。それは、ソ連のアフガニスタン侵攻への抗議としてのボイコットが、年がら年中戦争をしているアメリカは批判できないというものだった。しかし、今回は人権問題であり、絶対に容認することはない。中国と相対的に親密なアフリカや南米諸国は、もともと冬季競技の選手は少ない。それを考えれば、北京冬季五輪は大多数の国の参加しないものとなる。中国政府の、「面目丸つぶれ」は、目に見えている。
ただでは済まないパリとロス
「面目丸つぶれ」の中国政府は、報復に出る。中国政府は、まず直接的報復として、ロス五輪をボイコットしたソ連と同様に、パリ五輪はボイコットするだろう。しかし、それだけでは済まない。ソ連と中国との違いは、「社会主義国」(マルクス主義でいう社会主義とは異なるが、資本主義ではないのは確か)と中国が国家管理型資本主義経済大国であることだ。習近平政権は、コロナ危機での「ひとり勝ち」で自信過剰に陥っており、今の方針を変えることはない。旧ソ連圏は壁の向こうの閉ざされた世界だったが、中国は、世界中に中国製品が溢れていることでも分かるように、世界経済と密接に繋がっている。中国は、経済力を武器にボイコットに参加するようアジア・アフリカ・南米諸国に呼びかけることが想像できる。アメリカの「分断」どころか、世界は協調から分断・対立に進むことになる。
 世界は、中・ロと、西側、それに中立的諸国に分断される。現在でも、これは進行中だが、今後はさらに中・ロと西側の対立は激しくなり、軍事衝突の危険性も高まる。2024年、2028年の五輪はそのような状況下での開催になる。何が起こるのかは予想できない。それが「正常な」オリンピック・パラリンピックと呼ぶことはできないだろうということだけは、確かだ。


 

 
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