夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

カネの亡者対戦争亡者 トランプ対ゼレンスキー

2025-02-22 12:14:01 | 社会


 これは直接的には、トランプが「2022年のロシアの侵攻はウクライナのせいだ」という発言から始まったものだが、それ以前の、米・ロによる和平交渉がウクライナ抜きで行われたように、ウクライナの頭越しで交渉が行われることへのゼレンスキーの焦燥と怒りが表面化したものである。
 
 勿論、「戦争を終わらせる」と豪語するトランプが、ウクライナ国民の生命と生活を重視する平和主義者というわけではない。「戦争を終わらせる」のは、アメリカが莫大なカネを使ってウクライナを支援しても一文の得にもなりそうもない、というカネの亡者の発想からである。

 トランプがゼレンスキーに腹を立てているのは、上記の「提案」をゼレンスキーが拒否したからだ。その怒りから、相手を攻撃するためには、どんな嘘も平気でつく。それがトランプ流のレトリックであり、「ロシアの侵攻はウクライナのせいだ」も「ゼレンスキーの支持率は4%」もレトリックであり、トランプ自身がそのことを信じているかどうかも疑わしいので、発言の真偽を確かめる必要性はない。

 片や、ゼレンスキーは、国民が何人死のうと何が何でもロシアをやっつけてやるという戦争亡者と化している。ウクライナ国内では、逃げ惑う男性を徴兵担当局員が無理やり引き連れる様子が西側メディアでも報じられている。それは、恐らく、ロシアの侵攻直後にあった和平交渉を蹴り、徹底抗戦に転じたことを間違いだったと認めたくないからだろう。ウクライナはその後の3年間で、さらに領土を失い、とてつもないほど人的物的被害を被っているからである。
 しかし、ゼレンスキーが戦争亡者と化したのは、好き好んでそうなったわけではない。ゼレンスキーが「徹底抗戦」を決意したのも、欧米の支援が約束され、「勝利の見込み」が感じられたからである。また、その時の和平交渉時に、(恐らくは、和平を潰すために、敢えてこの時期に報道された。)ロシア軍による「ブチャの大虐殺」が大々的に報道され、西側全体とウクライナ国民の怒りが燃え上がったことにもよる。
 勿論、相手側のプーチンも最悪の戦争亡者と言うべきだろう。2022年以前のウクライナにおいて、キーウの親ロシア派政権は「マンダイン革命」で壊滅し、ウクライナのロシア語話者は、アゾフ連隊で名高いウクライナ民族主義勢力に弾圧された。ウクライナには、NATO加盟も動きがあった。しかし、それはウクライナ軍事侵攻の正当化には、微塵もならない。あくまでも、本格的な戦争開始を命令したのはプーチンである。この戦争亡者は、かえってNATOの脅威を増大させ、ロシア国民を死に追いやり、困窮化させる選択をしたのである。
 
欧米の戦争亡者たち
 この戦争の長期化は、戦争亡者は何が何でも軍事力でロシアをやっつろという欧米首脳が、軍事支援を約束し、ゼレンスキーを焚き付けた結果である。
その意味では、プーチンだけでなく、欧米政府もそれを支える主要メディアも戦争亡者と化しているのである。
 この戦争亡者の特徴は、自分たちを100%正当化し、対立する側を徹底的に最悪なものと決めつける、即ち悪魔化することで、戦争への道を突っ走ることにある。それによれば、プーチンは、ロシア帝国の拡大を目指しているので、ウクライナ侵攻で、ウクライナの壊滅をたくらみ、それだけでは終わらず、いずれヨーロッパ全体に軍事進攻を仕掛けてくる、ということになっている。だから、欧米はウクライナに最強の軍事支援が必要で、ヨーロッパも軍事費はGDP5%を目指した軍事強化をしなければならない、ということである。そこには、極めて薄い根拠しかない。そもそも、ロシアのウクライナ軍事侵攻は、数万から15万人程度の兵力で行われた。他の戦争では、湾岸戦争連合軍65万、イラク戦争アメリカ軍26万であり、この二つとも、イラクの軍事占領を目指してはいない。それより少なくとも兵力では、イラクより大きな軍事力を持つウクライナを占領できる兵力には、遥かに不足していることが分かる。第二次世界大戦のポーランド占領に投入されたドイツ軍は150万である。そのことから、プーチンはウクライナ占領など意図しておらず、単にキーフの政権を親ロシア派に変えるためだった考えるのが妥当である。要するに、デタラメな側近の情報から、ウクライナ国民の多数は、ネオナチ派の民族主義政権に圧迫されているので、ロシア軍と呼応しネオナチ派を倒してくれると、愚かにも思い込んだのである。

 振り返れば、プーチンの帝国拡大の意図など、2022年侵攻以前には、ほとんど叫ばれたことはなかった。それが、侵攻以後、それ以前に西側メディアで度々報道されたウクライナ国内の紛争も、「アゾフなどの危険な民族主義者」もは消し去られ、問題が2022年に何の脈絡もなく始まったかのように、「悪魔のプーチン」の大合唱に変わったのである。
 和平交渉を模索する意見は、すぐさま「プーチンの手先」と非難される。
ロシアの2022年の10月、ウクライナの戦争終結へ向けた協議を行うよう促すアメリカ民主党内左派による動きがあったが、それもロシアを利するという非難に合い、簡単に封じられた。
 
 ロシアはヨーロッパ全体に侵攻してくるに違いないという主張は、ベトナム戦争にも使われた一種のドミノ理論である。民主主義国が、ベトナムで共産主義者に負ければ、共産主義者はさらに侵略を進め、やがてはアメリカまで攻め込んでくるというものである。ここにも、対立する相手の悪魔化があるが、それが馬鹿げていたことは、歴史が証明している。
 
 確かに、プーチンはICC国際刑事裁判所から逮捕状が出ている国際法違反の犯罪者である。その意味では、軍事侵攻に反対しウクライナ支援を行うことは道徳的規範を重視したものである。それが、極右よりも、リベラル中道派に軍事支援強硬派が多い理由である。しかしこの道徳的規範の重視は、イスラエルにはまったく用いられない。逆にイスラエルに抵抗するパレスチナ武装勢力を悪魔化することで、イスラエルのジェノサイドをも正当化し、イスラエルへの軍事支援をやめようとしない。そこには、イスラエル政府は欧米の仲間であり、それと対立するパレスチナは、「悪」と見做す欧米の本性がある。

戦争亡者はいずれ敗北する
 日本も同様だが、いつの間にか、マスメディアでは、軍事militaryという言葉は、すべて防衛defenseに置き換わった。軍事費は防衛費に、軍需産業は防衛産業と呼ばれるようになった。核兵器も、国防省や防衛省と呼ばれる省庁で管理されていることで分かるとおり、「防衛」には核兵器すら含まれる。既にに軍艦、戦艦は護衛艦となったが、その内、戦闘機は防衛機、戦車は防衛車両と呼ばれるのかもしれない。「軍艦マーチ」も「防衛マーチ」と名前が変わるのかもしれない。ここには、戦争亡者による戦争の正当化への国民への刷り込みがあるのだが、誰も気づこうとはしない。
 
 しかしそれでも、戦争亡者の政権が長続きすることはない。アメリカでは、戦争亡者のバイデンからカネの亡者のトランプに変わった。ヨーロッパでも遅かれ早かれ、戦争亡者の政権は姿を消すだろう。軍事費の著しい伸長は、国民を疲弊させ、社会を混乱に陥れるからだ。アメリカ同様に、自分たちファーストのカネの亡者の極右に、政権はとって替わるだろう。勿論、その時は、国民生活の疲弊が治まるどころか、ますます困窮するばかりなのは目に見えている。
 

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