本書は、1990年9月30日に発生した茨城県の東海村にあったJCO東海営業所での臨界事故で、大量の中性子を被曝した大内久さんの治療の記録である。
普通の事故であれば、事故直後が一番酷い状態で、治療を受けて回復するというのが一般的な過程だが、この臨界事故の場合は、事故直後は見た目は少し焼けどを負った程度で、話す事もできたが、時間が経過していくにつれ、皮膚等が再生せずボロボロになっていき、毎日大量の鎮痛剤や輸血を行い、機械で命をつないでいる状態に最終的にはなっていた。
本書は、被曝事故の恐ろしさを伝えるだけではなく、「医療とは何か」ということも考えさせる。被曝治療50日目で、「助かる見込みが非常に低いという状況のなかで、日に日に患者の姿が見るも無惨な姿になっていく。その患者の治療に膨大な医薬品や血液などの医療資源が使われていく。しかし、そうしておこなった処置は患者に苦痛を与えている」(126頁)という状況に陥ってしまったからだ。是非、医学を目指す人たちには読んで、考えてもらいたい。