【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」(83)
青空が広がっているのに、家の中にばかりはいられない気分だ。夏日にもなって、太陽が照り付けてくると、やはり日焼けが気になる。散歩に出かけたついでにドラッグストアMに寄って、日焼け止めを買った。
「要りますか?」
と店員が尋ねた。商品を入れる袋のことらしい。
「あ、はい」
どうやらレジ袋は有料になったようだ。
散歩だけのつもりだったので、マイバッグの用意はしていない。その時は、商品を裸で持ち出すことで、万引きに思われることを懸念してしまった。小さな物だからシールを貼ってもらえば良かったな、と、今になって思う。
私が食品や日常品を買う店は、特には決まっていない。出かけたついでに立ち寄る所や、税込みの値段で安さを売りにする店のT、コストコのように会員になっている所や、住まい周辺にあるいくつかの店舗を利用している。
この安い店のTはずいぶん前から、マイバッグの持参を奨励していた。それを持って行かないと、レジ袋は3円の有料となる。コストコへ行く時はこの店のロゴ入りの袋が購入してあるので、持って行く。生協の店舗でも、以前からマイバッグを持って行かないと、確かレジ袋は確か5円だった。
そんなこんなで、行く店によっては専用のエコバッグを用意しているし、出かける時のトートバッグには、小さく折りたたんだマイバッグを必ず入れている。
レジ袋から「エコバッグ」への運動は、神田お茶の水でエコロジーショップを運営していた株式会社GAIAが平成4(1992)年、環境保護運動やCO2削減のために始まった。初期は各地の自然食品店で、やがて日本のエコロジーブームに乗って、ダイエーや西友、イオンなど流通王手が布製バッグの販売を始める。
ところが「エコバッグ」という名称は、GAIAが商標権を持っていた。このため、流通大手は「マイバッグ」の用語に統一する。レジ袋を利用しない人には、5円割引サービスと、マイバッグの販売(100円が多かった)を併用したことで、マイバック運動=レジ袋削減運動のイメージが定着した。
平成20(2008)年ごろには、セレブや富裕層が愛用する洒落たエコバッグがブームに。そういえば、当時のアメリカでも、住む娘の家の近くにある、オーガニックの食品を扱う店のエコバッグは、評判が良くて土産としてもらったことを思い出した。でも、このブームにも問題がないわけではない。万引きの温床になりやすいのだ、と。
そんな中、経済産業省が通達を出す。こうして、今年7月1日から、あらゆるプラスチック製買い物袋の有料化がスタートすることになったのだ。そういえば、数か月前にユニクロでは、マイバック持参をしきりに勧めていた。「なぜ?」と思っていたが、どうやら先駆けてのお知らせだったようである。その後、紙袋は無料であることも知った。
さて、最近ではこのレジ袋有料化になることを受けてか、冒頭に書いたドラッグストアMや近くのマーケットでは、すでに有料になった店もある。何も言わずに、惜しげもなく購入品の量に見合った数のレジ袋をくれる店もある。
レジ袋の過剰消費から、繰り返し利用できる買い物袋の使用に切り替えることで、ゴミの削減、温室効果ガスの削減、レジ袋の原料である石油の節約はもとより、海洋プラスチックごみの削減、地球温暖化の歯止めの一端にもなる。
そう思っていたのだが、昨今のコロナ騒ぎで、アメリカではエコバッグの利用を禁止しているニュースを知った。エコバッグの持参を奨励していたはずのアメリカ、特に環境意識の高いサンフランシスコだが、市民や企業にスーパーマーケットでのエコバッグを使用しないように要請をした、と言うではないか。
感染者が保有しているバッグには、ウィルスが付着している可能性があり、店員や他の顧客に感染するリスクがあるというわけだ。ということで、紙袋を利用するようになったそうである。やがて東海岸のニューヨーク州も感染者のあまりの多さとなり、アメリカ全土が、そして世界の各国が、コロナ対策の数々に追われることになった。娘家族が住んでいるニュージャージー州でも、エコバッグの使用は禁止だという。娘たちの自粛生活は、どうなっているのか。
「変わりない日々だけど、元気だよ」
娘からそう聞くと、このことを「今は良し」とするしかない。
ふと、思い出した。スーパーで食料品などの買い物をした時、日本では自分で袋詰めをするのが当たり前である。が、アメリカは違っていた。レジの隣にパッキングをするスタッフがいるのだ。慣れた人の手で素早く、袋の重さを均等にしてくれるし、デリケートな食品素材は、きちんと仕分けもしてくれた。
しかし今、問題になっているのは、こうしたスタッフの手によって袋詰めされることで、そのスタッフの手を介して感染が拡大する可能性があるのではないか。こうして、環境意識が高いサンフランシスコ市がエコバッグの使用禁止に踏み切り、それが全米に広がったようだ。
繰り返し利用するエコバッグにウィルスが付着する可能性があるのは否定できない。「エコバッグは危険」という情報に、どう対処したら良いのだろう。日本では人任せでなく、自分で品物を袋詰めしていることが、救いではある。確かにバッグは目立った汚れがない限り、滅多に洗うことがないが、反省すべき点のようだ。
自粛生活が続く中、食べ物屋さんのテイクアウト&デリバリーなどでは、使い捨て容器が使われているが、その素材にはプラスチック製のものが少なくない。再利用のものとなれば、ウィルス感染の心配も拭えない気がする。コロナウィルスの収束が待たれる中、環境問題も考慮しなければならない。ともあれ、エコバッグ・マイバッグの使用が奨励され、レジバッグの全面有料化の日が近づいて来た。