『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(公式)
Amazonプライムビデオで配信開始された『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を観てしまいました。
前半の第三村パートの唐突さと描写の細かさとどうでも良さにかなり退屈になりました。『Q』にて、目の前でカヲルくんの首が吹き飛んだ事で鬱に陥ったシンジが回復した頃に綾波(仮)がまたもシンジの目の前で融解しても大した動揺を示さず鬱にも陥らないシンジに驚きました。
その後ヴンダーの特攻大作戦の隠さない『宇宙戦艦ヤマト』感に加えて、冒頭同様にモブ敵として圧倒的な数にインフレするエヴァと言う存在がもう白けて仕方なかったです。これはエヴァと言う存在の特別感を数によって相対化する試みなんでしょうか。
そしてそこで繰り広げられる戦闘シーンはごちゃごちゃと動くだけでスケール感も感じられず、アニメーションとしての面白さは旧劇のそれには到底及ばないものでした。本作に限った話では無いですが、画面内の物量が多いシーンをCGで描くとコマ落ちしています。『レディプレイヤー1』や『ミニオンズ』では起きえない事態を観ると、日本は最早アニメも最先端ではないのではと言う思いに駆られます。と言うか、ゲンドウとの対話パートまではお話的にもアニメーション的にも退屈で堪らないものでした。何で全体的に『シンエヴァ』が評価が高かったのか、100億円を超える興収となったのか謎でした。
その謎はゲンドウとの対話パートで分かりました。シンジがゲンドウと対峙すると、TVシリーズや旧劇でのシンジの独白をなぞる形でゲンドウがこれまでの人生や周囲との関係性の辛さを独白します。それもTVシリーズ最終回の表現をなぞる形で。
ファンが長らくそうだろうなと思っていたゲンドウの過去が独白されます。周囲と馴染めず辛かったが、碇ユイと出会った事で救われたがユイが亡くなった事で孤独が深くなった、辛くなった、と。それ故にゲンドウはユイと再び会うために人類補完計画を進めたのだと旧劇で分かりきっていた事をツラツラと開陳します。
正直言って、それは知ってたよ、って感じです。そしてその独白の表現はTVシリーズ最終2話で用いられた原画、線画で表現されます。でもそれは過去の表現を引用して用いただけのオマージュ以上では無かったです。当時感じられたような切実さは皆無でなぞられた表現は寒々しいです。
と言いますか、ゲンドウパート、アディショナルインパクトに至るパートはTVシリーズ、旧劇の焼き直しばかりで、その焼き直しも余り面白い表現では無いです。ファンへのサービス、目配せと言った趣です。旧劇でゲンドウに頭部を撃たれたリツコが今回はゲンドウの頭部を撃つ、戦略自衛隊の代わりにサクラに腹部を撃たれるミサト。巨大な綾波は申し訳程度にCGに変更されていますが、これ面白い??
今作新規のカットシーンは敵の小さいモブエヴァがよく分からない所で飛び交うだけで新鮮味はあまり感じられませんでした。そもそもヴンダーをはじめとして、"人外未知"のテクノロジーベースのエヴァやアイテム類の有機的なデザインが個人的に全く惹かれず辛かったです。加えて言うと、新規キャラのデザインも中々辛く、キャラクター自体もかなり辛いものでした。アニメの"キャラ"以上では無いと言う。
今作で面白いと思えたカットはアスカやマリの下半身、もっと言うと臀部や性器を下から煽った低めのカメラからのカットでした。でしたが、2021年でそこなのか、と。面白いカットは女性キャラクターの臀部と性器のカット。しかもアニメならではでなく、実写で出来そうなカット。アニメである必要があったのか、となります。
話として、いつのまにか使徒と人間の生存競争と言う形になってたのがふへっ?となりました。新劇から月面で巨人を発見するシーンがありましたが、あれは『2001年 宇宙の旅』をまんま引っ張って来るよと言う事だったんですね。『2001年 宇宙の旅』は後年の解説で、人類とAIの生存競争の話である事が明らかにされました。『シンエヴァ』はそこを引っ張って、人類と使徒との生存競争になっているようです。神になる云々はスターチャイルドなんだと思います。
そして本作は旧劇よりも庵野秀明監督の私小説の色合いがより鮮明になっており、もはやSFアニメでは無くなっていると感じました。と言うか、作劇と言う観点からも物語としての面白さは感じられませんでした。シンジは物語の必要に迫られ鬱になり、物語の必要に迫り鬱から回復し、強靭なメンタルを持つ大人になります。シンジは"希望"の力で利他的な行動をし、アスカ、レイ、カヲル、そしてゲンドウを救っていきます。物語上も特に理屈は示されません。少なくとも私は良くわかりませんでした。SFと言うよりファンタジーです。悪い意味で。
このシンジによるキャラクターの救済こそが本作の最大の弱点であり、評価点なんだと思います。この救済、ファンタジーに"乗れた"人にとっては、本作は福音であり、大団円に満ちた最終作だと認識されたのだと思います。だからこそネットでは好評が溢れ、興収も旧劇を遥かに上回る100億円越えとなったのだと理解します。
私はこの救済は前者、弱点の認識です。超越者となったシンジがキャラクターを救う事は救済ではあると思うのですが、ご都合が過ぎるのでは?となりました。本作によって、本作の下敷きとなっている『新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを、君に』の表現の秀逸さと誠実さを確認させる結果となったと思います。本当に当時監督の意図や表現を理解できなかった事を恥じいるばかりです。
そして結局マリはなんだったのだ?となりました。ユイの後輩で、ユイに好意を持っていた女性だったらしいのですが、マリがシンジの庇護者として立ち振る舞うばかりか、あまつさえラストカットではシンジの恋人のように振る舞います。マジかいな?普通に考えてキモくないですかね。
本作で1番良かったのは、ワンダースワンです。『破』で登場し一部で話題をさらったワンダースワンは今作で更にフィーチャーされました。ゲーム画面は赤と黒のバーチャルボーイ仕様。横持ちでプレイしているのは『グンペイ・リバース』と思しき横画面仕様の『グンペイ』。ワンダースワン版『グンペイ』は縦持ち仕様だったので、かなり独自の仕様です。また、ワンダースワンの十字ボタンはゲームキューブコントローラーのCスティックを模したX、Yのスティックとなっていました。この仕様のワンダースワン、良いなぁとなります。そしてソフト名は『バーチャルコレクション』。
感想と言うか、思った事を吐き出しました。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は、『新世紀エヴァンゲリオン』、『新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを、君に』の繰り返しの物語でした。その繰り返しをあたう限りポジティブにした事で万人に受け入れられるアニメ映画になったのだと思います。ただ、その為に失ったものは大きかったように思います。現実と地続きだった世界観は突飛なアニメ世界となり、シンジの葛藤もステレオタイプな切実さを欠いたものに感じられ、私にとってとてもどうでも良いものになりました。この辺の突飛なよくあるアニメの様な描写の雑さはある意味ワザとなのかとも思います。でも、これ面白いのか?となります。
本作は私にとっては危惧した通り残念な作品でした。一方で『新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを、君に』が大傑作だと理解させてくれるきっかけになりました。その点では本作は逆説的に大傑作であると思います。
新しい『エヴァ』ゲーム出ないかな。そして『エヴァ』仕様のワンダースワン欲しいです。
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